第35話 叛逆の時
翌日。
ミュールパント城内の会議室にて。
長机を囲む面々は、当初と比べて随分と数が少なくなっていた。
総督のマコト、ブラシュタットの生き残りであるアザレア、補佐官ノノ、そしてブラシュタット家に忠義の厚い前将軍の息子、ジルベール。
ハルトフォードに与する面々は、ブラシュタットについての重要な意思決定を行うこの場から排除された。
「では、アザレア様が正式にブラシュタットの当主となった暁には、エルフに大森林の自治権をいただくということで」
「はい。元々我々はあの森を有効には活用できていませんでしたし……大森林はエルフのものだと宣言した上で、これからは友好的な関係を築いていきたいと考えています」
ノノが用意したエルフによる大森林の自治を認める書類に、アザレアがサインをした。
今後、ブラシュタットはハルトフォードと全面的に対立することになる。
そのためには、少しでも多く味方が必要だとアザレアを説得した結果だ。
「さて、次は本題に入ろうか」
二人のやり取りを見届けると、マコトはそう切り出す。
「リリィさん奪還作戦と、ブラシュタット独立の話ですね」
「……いよいよですね」
ノノとアザレアの士気は高そうだ。
「ハルトフォードからリリィを奪還する方法と日取りだが……マグナ・ハイランドで行われる挙式の日に、僕が単騎で強襲する」
「随分と脳筋な作戦ですね……というか最早作戦でもなんでもないのでは」
マコトの発言に、ノノが懐疑的な視線を向ける。
アザレアも同様だ。
「なぜ挙式当日に? 警備の体制がいつも以上に厳重である可能性が高いと思いますが」
「確かに、その通りだ。マグナ・ハイランドでは最大級の警備網が敷かれているだろう。では、それはなぜだと思う?」
「ハルトフォードや同盟国の重要人物が、一堂に介するからかと」
実際、マコトとアザレアの元にも、招待状が届いている。
マコトやアザレアの境遇を考えたら、ふざけた話ではあると思う。
「そうだ。次期当主が結婚するとなれば、ハルトフォードに与する主だった人物が一斉に同じ場所に集まる……リリィを奪還するついでに、そこを叩く」
「敵の重鎮を一掃する先制攻撃によって、ハルトフォードに大打撃を与える……ということですか」
「ああ。僕の単独行動だし、リリィの奪還が最優先だから全員まとめて打ち取れるかは怪しいが……効果は大きいだろう」
「うまくいけば、ハルトフォードや同盟国がマコトさんやブラシュタットの反乱に対応する準備を整えるまでの時間が稼げるというわけですか」
ノノがふむふむと相槌を打つ。
ブラシュタット側としてもようやく邪魔な勢力を排除した段階で、内部の体制や戦力が整い切っているわけではない。
まだ、時間が必要な状況だ。
「とりあえず、中に入るのは簡単だ。何せ、向こうから招待状を送りつけてきたんだからな」
「問題は出る方でしょうか? リリィさんを奪還したとして、まだ戦力は二人です」
ノノが懸念点を挙げる。
すると今まで沈黙を貫いていたジルベールが口を開いた。
「マグナ・ハイランドは最先端の魔法技術を利用した強固な防衛システムを築いていると聞いたことがある」
「実際に見たことはありませんが……敵国の覚醒者が奇襲を仕掛けたとしても、容易に無力化して撃退できるほどの体制になっているらしいですね。となると、いくらマコトさんとリリィさんと言えど……」
「その点については、問題ない」
マコトは断言し、続ける。
「マグナ・ハイランドの警備システムを構築したのは、僕なんだ。あの城は一種の巨大な魔道具で……僕にとって、最も簡単に突破できる場所だ」
「なるほど、だから帰りも心配いらないし、マコトさんなら単騎で奇襲もできるというわけですか」
マコトの説明に、ノノは納得した様子を見せた。
「ああ。僕がリリィと一緒にハイランドを脱出したら、次はいよいよブラシュタットの番だ」
「わたくしがブラシュタットの当主であると宣言すると同時に、ハルトフォードへの独立宣言と、宣戦布告を行う……」
「アザレア様。私やブラシュタットに忠義を尽くす諸侯が、貴女をお支えします」
緊張の面持ちで呟くアザレアの背中を押すように、ジルベールがそう言った。
「さあ、いよいよだ。僕たちが失った物を取り戻し、ハルトフォードに叛逆する時がやってきた」
マコトは一堂を見回して、高らかに告げた。
◇◇◇◇
どうもりんどーです。
いつもお読みいただきありがとうございます。
1/1~1/3はお休みをいただきたいと思います。
次回更新は1/4の予定です。
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