第2話「泡沫」
先輩が人魚になってしまった。先輩はこんな姿では大学で単位を取れず、親に迷惑をかけると泣いていた。私は人間に戻る方法を探しながら、先輩の住むアパートの浴室に通い、先輩の話し相手になることにした。
人魚を人間に戻す方法は簡単には見つからなかった。ネットには載ってないし、そういった文献も見当たらない。でも人形姫なら、先輩は運命の相手に出逢えば人間になれるはずだった。
先輩にそのことを話すと、こんな陰キャラにそんな相手できるはずないだろと泣きながら叱られた。私はそのことに関しては否定も肯定もできなかったので、曖昧に笑っておいた。
日に日に先輩は弱っていった。太陽光に浴びていないのが悪いのだろうか、人間用の食事が悪いのだろうか。色々と試したけれど、先輩はぐったりしていて、言葉すら発しなくなった。
ある日、合鍵を使って先輩の家の浴室に入ると先輩がいなくなっていた。そんなはずがないと私は部屋中を見回ったが、姿がない。もしかして運命の相手と思いが通じあって、人間に戻れたのだろうか。しかし、先輩がこんな状況になっているのを知っているのは私だけのはずだった。
人魚姫のあらすじを思い出す。そういえば、思いが通じ合わなかったとき、人形姫はどうなったのだったか。
私は浴室に駆け出した。水面の上には泡がひとつ浮いていた。
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