星をひと掬い【掌編小説集】
北原小五
第1話「支配者」
隣の部屋に住む先輩にこの頃、恋人ができたそうだ。隣の部屋にいた私にも律儀に二人は挨拶をしに来た。
先輩の恋人は見るからに私に対し敵愾心を抱いているようだった。なにせ私は先輩の一番の後輩なのだ。一番の親友でも一番の恋人でもない、一番の後輩というポジションはたとえ恋人であっても邪魔できない。妬ましく思うのも無理はないかもしれない。
たしかに私は先輩のためにリアクションペーパーを捏造したり、先輩のために作り過ぎた肉じゃがを振舞ってあげたり、先輩のために運転免許も取ったけれど、別に恋人になりたかったわけではない。ただ、あるのは――。
私はスマホを取りだし、恋人に連絡を取る。いい演技だったと興奮気味に恋人を褒めた。あれならばきっと先輩は自分の恋人が後輩にヤキモチを妬いていると思っただろう。
私は先輩のことが恋愛的な意味ではなく、もっとシンプルに人間として好きだった。だから観察したかった。彼女ができたとき、どんな風に振る舞うのか。プレゼントを贈るときに照れるのか、些細なことで喧嘩するのか、全部知りたかった。
壁越しに合図の音がしたので玄関のドアを開ける。同時に隣の家のドアが開き、恋人が帰っていくのがわかる。偶然ですね、先輩、なんて言いながら私は笑った。さっき貰ってたピアス、銀色でかっこいいですね。
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