若妻達の吐息
バブルの好景気もすっかりと陰り、経済成長率も国内総生産もアジアの首位を奪われ、先進国として斜陽の時期を迎えた頃。そんな社会を覆う暗い影の事なんぞ、何処吹く風の如し。今日という今日を生きる世間の人々には、まるで関係無く。数年後に訪れる
大型商業施設による、商店街の
そんな商店街からやや裕福な家庭に向けた
背が高く、恐らくはこのG3に置いて一番の存在感を示す奥様は、今年30を迎える、
「ここ最近、魚ばかりか野菜まで高くなって来ちゃって。だから最近
うっとりとした姿で、そのナントカと云う俳優を夢想しているのだろうか。両手に持った大荷物の重量を無いかの如く、両頬に当ててイヤイヤと腰をクネらせた。
「マア、マア。ワタクシも是非とも拝見して見たいものですワネ。ワタクシも映画館に行く暇は取れないカシラ。ビデオテープのレンタルまで、お預けですワネ。そう言えばご存じカシラ、あの例のビデオショップの店長サン、そう、あのイケメンの、アッチのビルにお住いの後藤サン、あの後藤サンの奥様とデキてるらしいワ。コレ、斎藤さんの奥様が仰られてたンですけれどもね。モウ、
コロコロとした声で幸子の話を引き継ぐ奥様は、若い頃はさぞロリっとして可愛らしかったであろう、背が低く、丸い顔をした奥様だった。今では色々と丸くなってきて
物価の話題から流行のキネマの話題に飛び、ビデオショップのイケメン店長の噂話に飛び、会話のジャグリングを楽しむ幸恵と花子の後ろを、優し気な微笑みを携え時折、マア、だとか、ソウ、だとか、アラ、等と
この3人は、子を預ける保育園を通じて知り合った。鍛冶子は他人からすると、
「そう言えば、鍛冶子サン。この前アナタのご主人と
鍛冶子は、イエイエ、
「ウチの旦那ったら、本当に困ったものですわ。聞いて下さる。お風呂に入る時にお洋服を洗濯機に入れて
オホホホホ、と幸子が笑った。
「アラアラ、マアマア。でも、幸子さんのご主人って、いつお会いしても格好良いわア。シュっとしてて、背も高くて。お顔も甘いマスクしてますでしょう。羨ましいわア。」
花子は
「そう言えば、鍛冶子さんの旦那様ってどんな方なのカシラ。幸子サン、お会いしたのでしょう。教えて下さいな。」
花子はイケメンを見るのが大好きだった。これ程の
そうねェ。と言って幸子は鍛冶子をチラリと伺った。特に困っている様な様子も無さそうだったので、幸子はこれなら話に出しても構わないか、と判断した。
「何ていうか、その、気を悪くしないで
花子はガッカリとした、見た事も無い様なイケメンが登場するかと思ったのに、トンだ番狂わせだと思った。それと同時に別の好奇心が湧いて来た。何故、この様な恐らく世界に10人と居ない程の
そんな視線を受けてか、幸子はやや尻込みしながらも更に話を続けた。
「えっと、その、どうしてアナタの様に美しい方が、あの旦那様を選んだのかしら。気を悪くしないで欲しいのだけれど。もっと、何というか、華やかな方からもお誘いが在ったのでは無いかしら。」
鍛冶子は決して気を悪くするのでは無く、
「ウチの夫は、確かに皆様の旦那様程、格好良くありませんわ。収入も少ないですし。でもォ」
花子と幸子は耳を何時もの5倍程大きくして、回答を待っていた。その大きさは、期待値の表れか、下心の大きさの表れか。
「ウチの夫は、それはもう、セックスが凄いのですわ。セックスだけは、本当にモウ、エグくてエグくて。」
それはもう、と最後に付け足した。
それから先の帰路は、終始無言であった。
幸子と花子はその帰り道、何となく空を見上げていた。
青い空が何処までも続いている。
この空の下に、どれ程の苦悩と悲しみが存在して居るのだろうかと、思いを馳せた。
それを想うと、心が締め付けられる思いであった。
よし、明日もガンバロウと、自分に言い聞かせたのだった。
そして、鍛冶子も同じ空を見上げていた。
青い空が何処までも続いている。
この空の下で、どれ程の下らないセックスが溢れて居るのだろうかと、知っていた。
それを想うと、心が締め付けられる思いであった。
本当に、取るに足らない。
そんな三人の若妻達を、水溜りに潜むアマガエルが見送っていた。
尚、その夜三人の奥様方はそれぞれ旦那と、めちゃくちゃセックスした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます