7.再生

 安上りのノートパソコンの前に腰かけ、私は未だ慣れないタイピングで懸命に言葉を紡ぐ。


 私が犯した罪の記録、そして今も犯し続けている罪の記録を。


 こうして思い返してみると、なんて浅ましく、なんて惨めで、なんて不合理な生き方なのだろう。呆れてしまうほどだ。


 私は、私の持つ「間違い」とは別に、自らの自由意思によって道を違えてしまったのかもしれない。


 しかしその上で、こうも思う。


 もしそうなのだとして、本当に私に生きる価値はないのだろうかと。

 他の誰かの目にはそう映ったとして、私だけはたとえ嫌でも、私の生に縋りつかなくてはいけないのではないかと。


 私が読んだ物語の中に生きる人々は、多くが私よりも辛い境遇に立たされていた。

 その悲運の中で懸命に生き抜いたものもいれば、散ってしまったものもいる。


 その中で彼らが発したあけすけな言葉は、現実世界のどこにも属さない彼らの言葉は、驚くほどに私の心を刺した。


 彼らの言葉は私とは違ってどこまでも自由だった。


 だから私は改めて聞いてみたのだ。私自身の声を。


 自身を外に曝したくない。言葉が怖い。可能ならこのまま霞のように消えてしまいたい。


 どれも紛れもない、根源にあった私の本心だ。


 私はそれを必死に押さえつけて矯正しようとしてきた。

 そうして生きることは一般的に見れば正解なのかもしれないが、私にとっては明らかに違った。


 私が抱える「間違い」以上に、間違った行為だった。


 私の自尊心も、私の価値観も、私が生きる上では枷にしかならない。

 私は、それらから私自身を解き放つことにした。


 そしてこれまでとは違った形で、私は再出発しようと思う。


 文字の上では私は自由だ。何ものにも縛られない。

 ゆえに私は自分の言葉を、自分の想いを、物語の中に込めることにした。


「そうしなければいけない」ことで溢れていた私の人生で、初めて見つけた「そうなりたい」ことだと思った。


 あるいは、今まで言葉に狂わされてきた私は、言葉を征服したかったのかもしれない。


 どちらにせよ、私はこれから文字を操り、言葉を紡ぎ続けよう。

 

 私は、私の「間違い」許そう。

 言いたかった言葉を、伝えたかった意思を表そう。他者に対して、自分自身に対して。


 そしてその生き方が誰からも許されるように、己に誇れるように、私は懸命に足掻こう。

 

 それが、間違いだらけの人生で見つけた私の新たな答えだ。

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