6.光明
大学の授業というのは、高校以前のものに比べて非常に面倒だ。
黙って教授のご高説を賜っていればよい授業もあれば、実験を行ったりレポートを書いたりしなくてはならないものもある。
中でも私を困らせたのは、やはりと言うべきか、プレゼンテーションやゼミ、卒論演習といった類のもの。
これからそんな環境に身を置かねばならないことに、私は絶望していた。
そこでなにをしようとも、足掻こうとも、私の「間違い」は消せはしない。
その先の社会で私という人間は通用しない。生きられるわけがない。
暗い想像ばかりが頭に浮かんで、気力というものが完全に抜け落ちていた。
夜眠るときに、このまま永遠に目覚めなければよいと何度も願った。
一日中布団の上に寝転がって何もできない日や、大学に通えない日も多々あった。
だがしかし、何回か休んでも試験で挽回できることも多いのが、大学教育の素晴らしいところだ。
私は活動できる時間を全て使って単位を取得することだけに専念し、残りの時間は自宅で何をするでもなく過ごした。
ところがその場しのぎの策も長くは続かない。
大学生活の四年目が、終わりが近づくにつれて、私の思考を苛む暗い想像と「無気力」は増していった。
心に空いた穴を何かで埋めたくて。抱えた重荷を下ろしたくて。幼少期から続く欺瞞に疲れて。
私はついに、外の世界に通じる全ての道に蓋をした。
思考を遮断して、私は暫く「無気力」に身を委ねた。
時間の感覚がとにかく曖昧で、どれだけの時間が経ったか分からない頃。
長らく外に出ていない私の友といえば、広い電子の海くらいのものだった。
そこを目的もなく彷徨い、流れてくる刺激を緩慢と目で追う日々。
そこに娯楽としての機能はなかったが、あの日だけは少し、何かが違ったようだ。
たまたま調子が良かった日に見つけたとある小説。最近アニメ化やら何やらと話題になっていたことで目に留まったもの。
試しに一話読んでみた。特段心が揺れることはなかったが、それでも私の微弱な意思は次を求めた。
もう一話、それも終わったらさらに次と、かれこれ何万字か読んだところで私は意識を失うように眠りについた。
それは私にとって久方ぶりの安眠だった。
後々振り返ってみて、その時の内容が面白かったかと言われれば、答えに窮してしまう。
何せ物語の美しさを楽しむだけの感性など、当時の私にはなかったのだ。
だがそれでもあれだけ無心になって読み進めたのは、少しばかりは文字を読むという行為に惹かれたからだろう。
物語に没入するという体験に安らぎを感じていたからだろう。
それは、かつて勉学に耽っていたあの時間を想起させた。
それから私は、ありとあらゆる文字に、物語に触れた。
小説、漫画、少し外れて映画や、音声作品、ノベルゲームまで。
おかげで「無気力」は徐々に薄らいだが、私の生活自体はより内側で完結するようになった。
外界を拒絶するだけでなく、物語を通じてより自分の深い部分を探った。
本当はあまり褒められた行いではないのだろう。閉じこもるのも、「間違い」を隠し続けたことも。
しかし、そんな理など私には関係なかった。それに縛られた結果が今の現状なのだから。
私は私の心に従順になることにした。その先にこそ光があると思った。
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