3.進歩
高校受験。私は第一志望の高校に合格できなかった。
それも努力の果ての失敗ではなく、そもそも挑戦に熱を注ぐことができなっかったという理由で。
その時の私には、勉学の先にある道を順風満帆に進めるとは到底思っていなかった。
代わりに別の道を探すこともできなかった。
私は停滞し、全てを運に任せてみたかったのかもしれない。
選択など無意味なことだと嘲笑う姿勢を演じて、暗に自分が「間違っている」人間だと世に知らしめてやりたかったのかもしれない。
あまりに迂遠な方法。そして私自身鼻で笑ってしまいそうなそれは、結果として大した跡も残さなかった。
受験が終わり、滑り止めの高校に通うことになった私を、家族は特段咎めることはしなかった。
無事に進学できたのだから、そこで勉強や青春に打ち込んでくれればよいと。成績よりもそこで得られる体験を大事にしてほしいと。
あまり積極的に干渉してこない親だったが、寄り添う態度は温かなものだった。
私は情けない気持ちと感謝の念でいっぱいだった。
失敗は己の未熟な精神によるものなのに。
騙しているようで罪悪感が生じた。
ああ、けれど、騙しているのは事実なのだろう。
「間違い」を認めながら、それを自分から進んで打ち明けないでいるのは、紛れもなく私の意志だ。
ならば私のするべきことは決まっていた。
最後までその道を全うしよう。普通に学生生活を謳歌しよう。
幸いその頃にはネットに触れられる機会が多く、私と同じ「間違い」を抱える者たちの存在についても知っていた。
同類の存在、十数年生きた中で私が独自に編み出した、できるだけ「間違い」を犯さない話し方。
それを頼りにして、私は高校生活に臨んだ。
三年での高校生活の中で、私が心から友人と呼べるものは皆無に等しかった。
でもそれは、中学時代に経験した暗闇とも少し様相が異なるものだった。
受け身でありながらも他人に門を開いていた私には、いくつか話し相手ができるようになった。
本来ならそこから仲を深めていくのだろうが、私にはそれが一向にできなかったのだ。
内に抱える「間違い」のためではない。
人との交流を極力削いで何とか自分を保っていたこと、それ自体が私を人付き合いから縁遠いものにしていた。
自分の意思は、差し迫った理由がない限り控える。
共有したい自分事も、身の安全のために内に秘める。
それが私の常態だった。自分という存在が誰かに触れられることがないよう立ち回って生きてきた。
言っても良いし、言わなくても良い。そんな境界線上に立った私は、いつだって後者を選び続けてきた。
始めて最後までやり遂げた部活動においても、その姿勢は変わらなかった。
人の輪から外れてはいないが、やはり限りなく縁の部分に私はいた。
そのことで最初は私も落ち込んでいた。しかし、今までのことを思えば確実な進歩だとも思っていた。
単なる慰め以上の手ごたえが、そこには確実にあったのだ。
だから、たとえ小さな一歩でも、積み重ねていけば普通になれるのではないかと、その時の私は希望を抱いていた。
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