第二話「旅の始まりと魔剣」
勇者アストレア、魔王セシリアの契約、成立ーーーーー
あの日、僕は魔王と契約をした。かつての仲間には何て言ったら良いのだろうか。裏切り者って言われるのだろうか。だが、実際はそれが正しい。そう言われて当然だ。それ相応の事をしてしまったのだから。人間は決して信じないだろう。僕もそうだったから。魔王がちょっとしたきっかけで人間のために力を尽くすなどあり得ない話に過ぎないのだからーーー
「これにて、私達の契約は完了しました。これから私は貴方と共に戦い、貴方と共に生きるのです」
これから僕は敵と共に新たな危機に立ち向かうことになるのか…そう考えるとなんだか不思議で仕方がない。でも少し新鮮だ。あの時僕の最大の強敵が今では仲間なのだ。昨日の敵は今日の友とは正にこのことなのかもしれない。
「それで、契約したのはいいけど…これからどうするんだ?」
「はい。貴方にはまず聖剣及び魔剣を手に入れてもらいます。貴方は『悪魔使い』なので貴方だけでなく、私を維持させるために膨大な魔力を必要とするのです。今のままでは貴方は何の支障も無く戦えますが、私が戦えるのはたった『5秒』といったところでしょう」
「ごっっ………」
5秒だと…!?これでは契約した意味が無いようなものだ。
……いや、今はそれよりも今の説明で聞きたいことが山ほど増えた。
「えっと……まず、僕は『勇者』から『悪魔使い』になったってことだよね…?」
「はい。正式には『勇者兼悪魔使い』です」
「りょっ………」
り……両方は聞いていない。本来の職は一人一つのはずだ。タンク兼アタッカーもヒーラー兼デバッファーなんてものも無い。なのに、人間である僕に2つの職をやらせるとかやはりあれはある意味魔王だということを改めて認識させられる。
「ですが、聖剣すら持ってない今の貴方は『勇者』とは言えないでしょう」
「はっっ……」
魔王にきっぱり言われてショックだった。魔王に言われたから同時に腹が立った。だが事実の他ないのだ。確かにあの頃は『聖剣』を手に入れて今のセシリアを倒したのだ。でも、今の僕の剣はただのなまくらだ。刃にすら輝きが見られないほどボロボロの剣だ。鞘も傷だらけで所々に傷穴が空いている。
「これで聖剣を手に入れないといけないのか……」
これではいつ使い物にならなくなってもおかしくない。刃こぼれも酷いし、錆も多い。こんな剣で聖剣を取り戻すのは流石に無謀だと思った。
「いえ、ご安心ください勇者様。聖剣は無くても『魔剣』はここにありますので」
そう言ってセシリアは足元に魔法陣を出現させ、闇に包まれた漆黒の直剣を取り出す。
「………!!!」
禍々しい覇気。全てを滅ぼすために生まれた剣。あの『魔王』が愛用していた魔剣。久しぶりに見たが、やはりこの剣に対する恐怖はあの時と変わらない。体が震えてきた。無意識に全身が震え、汗が噴き出す。
「ゆ、勇者様!?…すみません、怖がらせてしまいましたよね……ですが大丈夫です。貴方が扱い安くなるように魔力を調節していますから」
そういう問題じゃない。これから僕があの剣を振るうと考えたら余計に恐怖で体が震えてしまう。いつ魔剣に体を乗っ取られるか分からない。あの魔剣は『耐性』が無いとやがて体が乗っ取られ無意識に暴走する。正に諸刃の剣となりうる魔剣だ。
「僕に…この魔剣が使えるのか……?」
「はい!大丈夫です!聖剣を使っていた貴方にならこの魔剣も扱えると思います!」
「その笑顔が本当に怖いよ…」
でも、このなまくらを使うよりは遥かにマシだ。仕方ない、使いこなしてやる。かつての敵が愛用したこの魔剣を。
僕はセシリアから魔剣を受け取り、試し斬りしようと外に出ようとするが、セシリアに腕を掴まれる。
「……?」
「勇者様。この魔剣は『人を殺す』ための剣であります。人を殺す事以外にこの剣を使用すると魔剣の威力が下がるのです」
「はぁっ……!!??」
何てことだ。人を殺せば殺すほどこの魔剣の威力…切れ味が上がるということか。
「じゃあ、つまり……」
「はい。この魔力は全て人を殺した分のリソースから出来ています」
「っ……!!!」
とんでも無い武器だ。これを勇者である僕が使うというのか。矛盾にも程がある。
「でも、抜くだけならいいんだよな?」
「はい。是非鞘から抜いてみてください!」
何でこんなにも魔王が笑顔なのか全く分からないが、ひとまず鞘から魔剣を抜いてみる。
ジャリンッと甲高くも禍々しい音を鳴らしながら漆黒の刃が姿を現す。
「これが……魔剣……」
…そして、今まで殺された人の魂で創られた混沌の剣。
「滅殺剣キリシュタリア。それがこの魔剣につけられた名です。意味は『命を滅ぼす剣』」
「僕に一番似合わない剣だね…」
「そうですね…この魔剣及び私と貴方は正反対の関係ですからね。ですが、貴女がこの魔剣でこの残酷な世を変えてくださると私は信じております!」
「…………。」
今の世よりもこの魔剣が一番残酷だ。
しばらくして、僕とセシリアは旅に出る準備をする。魔王討伐の際に着た白い騎士服を身に纏い、その背中に魔剣を背負う。まぁ、これも悪くはない。少し魔剣が気がかりだが。
一方でセシリアは鼻歌を口ずさみながら何か作っている。
「セシリア、何を作ってるのって…」
「はい!魔王特製手料理が詰まったお弁当です!!嬉しいでしょう、ゆ・う・しゃ・さ・ま♡」
「あのなぁ…これから旅に出るのにそれだけ作ってどうするんだ。余計な荷物が増えるぞ」
「勇者様、一口どうですか?はい、あ〜ん♡」
「人の話聞けぇぇぇぇぇ!!!!!!」
あぁ。これから大変な旅になりそうだ。でも、こんな日常がどの家庭にもあってほしい。今回はそれを取り戻すための旅だ。魔王と共に未知の問題と戦う…。そんな旅の始まりだ。
……あと、セシリアの手料理結構美味しいな。
そして、かつて敵同士だった2人は共に家を出て、このリブリスの町に別れを告げる。
「また、旅に言ってくるよ……じゃあ行こうか、セシリア…?」
いつの間にかセシリアがいない。一体どこに行ったのか。
「セシリア……?」
「わぁっ!!!」
「うわぁっ!!!!」
背後から魔王の声が聞こえた。というか驚かされた。かつての敵に悪戯をされるのか……と思うと中々屈辱だ。
「ふふふっ……勇者様はやはり面白い人ですねっ」
「かっ、からかわないでくれ!!」
……僕は勘違いしていた。魔王はただ人を殺し、滅ぼし、自分だけの世界を作るだけかと思っていた。でも、セシリアを見ていて少し分かった気がする。平穏に過ごしたいと思っている魔族もいるんだって。あの魔王でさえもそうなんだって。
そう考えたら人間側も中々凶悪だ。魔族を理由にして、自分たちとは違うという理由だけで理不尽に殺す。結局人間と魔族はお互い様ってことなのかもしれない。魔王が、魔族が全て悪というのが今までの常識と伝えられているけど、今回の一例でその常識が変えられるかもしれない。共存できる未来だってあるかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は魔王と共に町を出た。
未知の旅が再び始まるーーーー
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