第24話 ボクは将来名君になる?

 すべてうまくいっちゃったよ!


 すっかり興奮して、なんだか自分がすごい王太子みたいな気がしてきて。

 陰謀全部知っていたような気までしてきちゃった。

 裏の事情を知らない貴族達がボクを見る目は、ちょっと前とは大違い。


 もしかしてオレってすごい!?

 いけてる王太子?


 いっいかんいかん。いかんぜよ!

 こんなことじゃいつか『ざまぁ』されるほうになっちゃうぞ。 


 ボクは舞踏会場のベランダに出た。


 卒業と共に冬は終わり春になるけれど、まだ寒い。

 でも頭が冷えてちょうどいいや。


 ……うん。思い出してきた。


 マリアンヌがボクに叩きつけた『ざまあ』を。

 ボクってどっちかと言えばダメな王太子かもしれないってことを。

 もう少しでテレーズと一緒に破滅するところだったことを。


 わかってる。わかってるとも。

 よーくわからされたとも!


「殿下、ここにいたのですか」

「殿下は主賓なのですから、中にいていただかなければ困ります」


 振り返ると、テレーズとマリアンヌがいた。

 ふたりは全然タイプがちがうけど、仲が良い姉妹みたいに見えた。


「いや、なんかさー。あそこにいると、自分がすごい王太子みたいな気がしてきちゃって。なんかそれ、まずいだろ」


 うん。ボクも成長したよね。

 はじめて人生のほろ苦さを知ったからな。

 人間の渋みってやつ?


 テレーズは、やさしくほほえんでくれながら、


「殿下は素晴らしい王太子です」


 お世辞とか言わない彼女にそんなこと言われると、顔がにやけてしまうじゃないですか。


「えへへー。テレーズぅ。だめだよぉ。そんなこと言ったら。

 今度こそ『ざまぁ』されるほうになっちゃうよ」


 マリアンヌがメガネを光らせ。


「その辺は、私がうまく手を打ちますから安心してください」

「安心より、怖さのほうが上なんだマリアンヌは」


 テレーズが楽しそうに笑った。


「そう感じていらっしゃる限り、殿下は大丈夫ですよ」

「テレーズがそう言ってくれるなら、だいじょーぶかも」


 マリアンヌがふぅっと息を吐いて、


「それにしても、殿下にあのような芸があるとは……驚きました」

「芸? ああっ! ボクの決めポーズのことかっ。

 生まれて初めて練習っていうのをしたからなっ」

「違います。あれはよほど洗練しないと恥ずかしいだけです」

「ええっ!? 鏡の前で一生懸命練習したんだけど……」


 全否定にしょんぼりしてると、テレーズが手を握ってくれて、


「殿下! 今度わたしと一緒に練習しましょう!

 わたしは実家の仕事を手伝っていた関係で、

 モデルさんの立ち方とか色々コツがあるって知ってますから」

「流石はテレーズ! 色々教えてくれるとうれしいな! でも、あれじゃないとすると芸って?」


 マリアンヌが呆れたように、


「グスタフ殿に『臣下でなく、ボクの友になってくれ、友と呼ばせてくれ』と言ったではないですか」

「あー……」


 そういえばノリで言った。


「予定になかったあの演技には驚きました。

 かなりの人が感動し、殿下は素晴らしい方だとささやいておりましたよ。

 よく思いついたモノですね」


 ボクは目をぱちくり。


「そ、そうか台詞になかったのかっ。すまん!」


 テレーズとマリアンヌは、顔を見合わせた。


「マリアンヌ様。わたしが言った通りでしたね」

「なるほど……素ですか。流石テレーズ嬢はよくお判りでいらっしゃる」


 なぜかマリアンヌはひどく感心したようで、


「殿下。貴方は名君になれるかもしれませんね」


 とまで言ってくれた。


「まさかー。本気にさせてから落とすとかしないでくれよ」




 この時のボクは知らなかった。


 この予言とも言えない予言は成就して、


 ボク、オットー3世が名君と呼ばれるようになるなんてさ!



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婚約破棄したのに名君になれるかも!? マンムート @NOMINASHI

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