第5話 断罪してやる!

「お前にとっては不都合な事実だからな! だが、うらむなら自分を恨め!

 お前がそんなに駄々をこねなければ言う気はなかったのだからな!」

「殿下! お待ち下さい!」


 テレーズが必死にすがりついてきてボクの言葉を止めた。


「テレーズ怖がることはない。こいつは悪。ボクたちは正義なのだからなっ! 光は闇に勝つ! 悪即斬!」

「ゲルドリング伯爵令嬢様! お願いです。殿下が告発を初めてしまえば、貴女の将来にも影が――」


 テレーズの悲痛な声を、冷たく平板な声が遮る。


「告発というのは、私が取り巻きに命じて、貴女のノートを破かせたとか、毎朝机を濡らさせたとか、筆記用具を燃したとか、机の中にゴミクズを入れさせたとか、机に『王太子殿下に近づいたらコロス』と稚拙な字で書き殴らせたとか、着替えを隠して更衣室から出られなくしたとか、美術の時間にモデルに推薦させて無理矢理全裸にしようとしたとか、私の雇ったならずもの達に脅されたとか、それでも貴女が音をあげないので、脅すだけでなく襲われ純潔を奪われる寸前まで追い詰められたとか、それでも屈しない貴女に激怒して、自分の手で階段から突き落とした、という話ですね?」


「その通り! まさに悪! お前は悪役令嬢!

 って、なんでお前が自分で言う!? それはボクの言うことだろう!」


 なぜだっ!?

 なぜこいつは自分からペラペラと言うのだ。しかも淡々と冷静にっ!?

 その上、ボクが知らなかったことまで!

 こいつが裏で糸を引いてたんだから知ってるのは当然だが、なぜ言う!?


 わからぬっ。なんだこいつはっ。


 わからぬぞぉっ!?


 いっ、いや。なにを怯えているんだボクは!

 ボクはすでに勝利しているのだ!


 ということは自分で罪を認めて少しでも罰を軽くしようとしているのだな!

 くっ狡猾な奴め!


「なぜ、自分から!? 殿下は貴女に情を――」


 テレーズの悲痛な声を遮る冷たい声。ボクの大嫌いな声。


「その証拠と証言とやらはほぼ全て事実です。少なくとも表面的には事実です。ですが、いくつかの致命的な嘘が混じっております。

 ですから、私を告発する根拠にはなりません」


「わたしは嘘などついておりません! 日々いやがらせを受けているのです! 

 身の危険を感じ、純潔さえ危うくなるほどの仕打ちまで!

 いくら伯爵令嬢という高貴な方でも、それを罪なしと言い切るとは!」


 テレーズの振り絞るような声。彼女にこんな声をあげさせおって許せん!


 断罪だっ!


「なにが根拠にならんだこのメガネ! ボクは証拠をきちんと集めてあるのだ! お前が背後でそそのかしたという証言もなっ。

 学生会室に取り巻きを集め、あれをやれこれをやれと命令――」


「私は彼女を階段から突き落とせないのですから」

「ふっ。十人以上が見ているのだぞ!」

「そうです! 後ろからだったのでわたしは見ていませんが、皆が確かに貴女だと」


 どうだぐうの音も出まい。


 勝った。



 でも、ぐうってなんだろう? わからん!


 メガネが冷たく光った。


「私がこの学園にやって来たのは、3年ぶりだからです」

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