ep22 甘く、苦い愛
彼女の叫びは欲に塗れた汚いものだ。
それがわかっていながら、ショコレータは否定できなかった。
その重さを知っているから。
【もう“真言”は要らないわ】
そう言って悪魔は【悪魔の腕】をほどいていく。
元の、神と悪魔が対峙する姿へと戻ったこの場に、優しい声が響く。
「気づいたんでしょう?あなたは【神】、祈りの行き着く場所。人の願いを受け取る存在だもの。」
「あぁ、気づいたよ。だが……これを俺は否定する。」
「人間は皆欲深いでしょう?」
「こんなにもたくさんの人が“愛する人との子供が欲しい”って願うなんてな。」
「だから私はあなたを倒す。人間の望みのために。そしてあなたを屈服させて私の夫にする!」
「そして子供を産みたいと?」
「もちろん!フフフ……あのときあなたは私を否定した。“お前は何もかもを手にして、それでさらに俺を求めた!だから受け入れられない!”ってね。今の私はどう?私は女王としての全てを捨てて、そして人間であることも捨ててあなたを求めている。あなた好みの女になったつもりよ?」
「本当に……良い女だよ。お前は!【神の手】!」
透明な腕が出現する。
彼女の全てを否定するために。
「あら、DV夫になるつもり?でも私はそんなあなたも受け入れてあげる!あなたの全てを理解して、最高の嫁になってみせる!【悪魔の腕】!」
黒い腕が出現する。
彼の全てを奪うために。
――バキィン!
互いの腕がぶつかり合う中、驚愕に顔を歪ませたのはショコレータの方だった。
「何故だ!?【神】の出力に拮抗できるわけが!?」
核爆発に近い破壊力を持つ、小規模なブラックホールレベルの質量を持った腕が拮抗する。
【神】としてのまごうことない本気の一撃が拮抗するはずなんてない。
「どうして【真言】で告白したと思ってるの!全ては人々の願いを私に向けるため!」
「そうか!人々の“欲望”がお前の力の源か!」
今の世界はつまらない。
神の作った世界が退屈。
人を愛したい、その子を産みたい、産ませたい。
そんな欲望が彼女を支えてくれる。
あの【神】をぶん殴ってくれと。
「欲望じゃない!これもまた、人間の“願い”よ!」
「他者を傷つける願いなど!否定されてしかるべきだろ!」
「傷つけ合うのも愛の証明!互いに傷付け合って理解して!そして生まれるのが愛!」
「そんな欲望に!平和を願う人々の心が!願いが負けるものかよ!」
――バキィン!
黒い翼が現れる。
キャンディナと言う【悪魔】の誕生を祝福するように。
――バキィン!
白い翼が現れる。
ショコレータと言う【神】の平和を象徴するように。
「だったら私一人、私一人でも幸せにして見せなさい!私と言う“不幸な女”があなたの【神】としての在り方を否定する生きた証拠になるのだから!」
「エラーは削除対象だ!お前を消して、この世界は平和を享受する!永遠に続く平和な世界に人々は毎日感謝しながら生きるのだ!」
「それができないのはもう理解しているでしょう!私が世界に教えた【愛】がこの世界を否定する!人は皆愛を求めてあなたを倒したいと願い続ける!」
「それは今だけの話だ!自我の強い魔術師が居なくなれば皆それに気づくことも無くなる!愛のない世界を正常なものとして生き続ける!」
「愛を知らない人生のどこが“平和”なのか!教えてほしいくらいだわ!じゃなきゃ私はこんなにもあなたを想って苦しい思いをしないのに!」
――バキィン!
数度目の衝突。
そしてそれと同時に悪魔は神の体を手中に収める。
――ムニュウ。
柔らかい体の感触が、彼の欲望を刺激する。
抱きかかえるその腕が愛を求めるその心を引きずり出す。
「この距離ならもう、逃がさないわ。」
しっかりと腰に手を回してショコレータを抱きしめた彼女はその唇をゆっくりと奪う。
必ずあなたを惚れさせる。
そう言ったその口で今、彼の口を塞いでみせる。
返事は要らない。
自分と言う“最高の嫁”を拒絶できない男にそんな“平和”な世界が作れるわけないだろうと。
自分の持つ最高の愛で彼を堕として見せる。
彼にとって、この結果は苦いものだろう。
でもこの先に待っているのは甘い、甘い生活だ。
【神】と【悪魔】で世界を作ろう。
ここには幸せも、不幸もある。
だが、それ以上に溢れんばかりの愛がある。
そんな世界を作って見せよう。
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