ep21 愛と言う欲望

神の作りたもうた世界に死は存在せず、そして新たな命も生まれなかった。


【あなたは私を心の底では怖がっている。】


彼の神を否定する悪魔はそんな世界を否定する。


【だってあなたが作ったこの世界。足りないものがあるんだもの】


【何のことだ!】


【あなたによって書き換えられたこの世界。性犯罪も0になったのよ?】


それは女王として国を治めた彼女だからわかる事。

不老不死の人間が自らの事を鑑みずに人を襲った報告が無いという事実。


【人間の3大欲求は食欲と睡眠欲、そして性欲よ?】


【それがどうした!】


【今の人類も二つの欲は確かに持ってる。なのにどうして性欲は誰も求めない?】


それは、かつての世界では当然のこと。

だが、今の世界にはそんなものが存在しない。

魔術師であるペンツァーやシェリアだけが男を求めていた。


【それは……不老不死となった人類が獣に堕ちないためだ】


【今、考えたわね?でも私にはわかるわよ。】


それは彼女の妄想であり、もっとも彼を理解しているからこそ言える言葉。


【あなた、私に襲われたのを覚えてるんでしょう?】


そもそもの話。

彼は童貞だった。

そして薬を利用して財園に襲われてそれを失った。

彼自身、性欲は持っていたはずだ。だが、何もわからないままに奪われたその経験が恐怖として刻まれた結果、“皆が幸せな世界”にその存在を否定してしまったのだ。


【なにを……!】


【だから潔癖になっちゃったんでしょう?レイプ被害者がレズやゲイに逃げるように、あなたは性欲というものから逃げ出した。】


【そんなわけない!】


【いいえ、これは事実。だからあなたは人から性欲を奪い、不老不死を与え、幸せできれいな人類と言うお人形を眺めるようになった!】


【証拠もないだろうが!俺は神になって、みんなが幸せになれる世界を作った!戦争も起きない、魔術師もいらない!不幸のない世界だ!】


【でもそこには幸せが無い。】


【人は生きているだけで幸せになれる!幸せになる権利は誰にだって等しくあるものだろう!】


【だから努力が報われるゲーム世界にした?レベルアップのある世界に。】


【そうだ!もう誰も泣かないでいい、誰かを傷つけなくていい!そんな幸せな世界だ!努力も必ず実を結ぶ世界だ!】


【でもそこに愛はない。】


【……ぐっ!】


彼女の言葉は強い。

それは欲しいものを手に入れるために、何でもできる女だからこその物。


【私は愛が欲しいわ。そうでなくちゃ、世界の全てを手に入れたとしても私は幸せになれない!】


【だがそれはお前のエゴだ!独善的な欲望だ!それは人を不幸にする種だ!】


【そんなものはどうでもいい!】


彼女が叫ぶ。

彼女の想いは世界に響く。

だからこそ。


【私はあなたが欲しい!世界中の全部を失ってでも!これから毎日数十万の人が死ぬ世界になろうとも構わない!】


悪魔は叫ぶ。

その欲望のままに。


【愛する人の子を産みたい!あなたの子を産みたいの!たった一人、その子供のためなら私は世界を呪ってやる!それが愛!人間が持つ原初の感情よ!】


その叫びが世界を響かせる。

全ての人間たちの心を軋ませ、音を【奏】でていく。


【もっと欲望のままに生きなきゃ人間じゃない!】


それが、この戦いを告げるゴングだった。

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