ep17 そして世界に唾を吐く

――ドォン!


――ドォン!


――ドォン!


何度も大きな衝突音が響く。


「今度はスカイツリーから落ちようぜ!」


「ヒュー!玉が砕けちまうよ!」


2年前のあの日、東京の街は壊滅し、ミスティカ・ゲーム・ワールドと共に復活した。

今ではそんな街中が一種のスリルを楽しむアトラクションになっていた。


――ドォン!


――ドォン!


――ドォン!


高層ビルの上から地上に飛び降りる“紐なしバンジー”。リスポーン地点をビルの上にすることで何度もその“リアルな死”を楽しんでいる人で溢れていたのだった。


「これも、不老不死の影響なのかね?」


「ねーベヘリー!スイーツ行きたい―!」


「仕事が終わってからだ。……さて、あいつらは来てくれるか……。」


そう言ってベヘリはスマホを何度も確認する。


「おいおい、ブラザーの頼み、それも神に挑むってのに断ると思ってんのかよ?」


「フランスから来てあげたんだからもちろんご飯は奢りだよね!」


「……あ、自分はヴィーガンなので別で食べてきます……。」


「あぁ?お前も一緒に来るんだよ!こういうのは人数が大事なんだからな!」


フランスの魔術師たち。

SNS好きなこの3人は日本王国侵攻の際、ベヘリが対峙して(和歌山中の飯屋を)何度も走り回った相手である。


「ベヘリー!なんでこいつらきてんの!?いい男が来るならっていうか呼ぶならちゃんと言いなさいよ!」


「うちの女王様が【神】を倒すと決めたからな。大筋は決めたらしいが……有名人、いいや、魔術師がたくさん必要になるから呼んだんだ。」


「それなら俺も仲間に入れるはずだよな!」


「「「「「うぇ!?」」」」」


振り返るとそこに居たのはアメリカの魔術師。

ある意味、コジロウと財園和雨を除けばこの世界で最も強い魔術師。


「初めまして、アンドレ・メッセンジー……アメリカの勇者だ!」


ラスベガスで全裸放置された彼はショコレータへ嫌がらせが出来るならとやってきていた。


「……ねぇ、ベヘリ。あんたもう少し人選考えたほうがよかったんじゃないの?」


「英語ができるやつは必要だからな……まぁ、そういう事だ。」


「それで?俺達はこれから何をすればいいんだ?」


3人のフランス人とアメリカ人の魔術師。

彼等を呼び出した理由、それは。


「これから財園和雨の全世界へ向けたスピーチの翻訳をお願いしたいんだ。」


もしもこの様子をニコラス・フラメルが見ていたなら。

あの魔術のエキスパートが見ていたならば。

こう言っただろう。


“さすがは女王様。魔術師に必要なことをちゃんと理解しているじゃないか。”


しかしこの場にそんな魔術のエキスパートは存在しない。

だからこそ、財園和雨は一人、離れた本社でこう呟くのだ。


「さぁ、準備は整った。フフフ、何が【神】よ、馬鹿馬鹿しい。あなたは私の【夫】でしょう?」


悪魔は笑う。

最後の決戦を夢見て。


「あなたがいる場所の見当もついているもの。さぁ、宣戦布告といきましょうか!」


悪魔は笑う。

その羽化を待ち望むかのように。

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