ep9 忘れられた天使
ミスティカ・アナザーワールドの大地は裂け、ガラガラと到底本物の大地とは思えないような音を立てながら壊れていった。
「こいつは……!どうなってるんだ!?」
天族を倒し、ログアウトしようとしたショコレータは目の前のメッセージに困惑していた。
【異世界”地球”とのリンクが切れました】
【”地球”側のアバターが見つかりません】
【ログアウトに失敗しました】
【インスタンスエリア“マキナズルーム”へ入場しますか?】
“マキナズルーム”とはいったい何だろうか。
マキナの部屋?
そもそもマキナとはだれの事を言っている?
だが、今は崩れていく大地の影響がこの“ゴッド・パレス”にまで及ぶ前に何とかして脱出しなければいけない。
「……あぁ!わかったよ!行けばいいんだろ行けば!」
そう言うと同時に、白い部屋へと飛ばされていた。
「ハロー、ニーハオ、ナマステー!マキナはマキナだよ!」
少女の声が響き渡る。
声の元を辿れば、真っ白な少女がいた。
ワンピースを着ているような、メイド服を着ているような、ドレスを着ているような、もしかしたらバニーガール姿かもしれない。
「マキナは“世界で一番かわいい女の子”だよ!」
あぁ、そうだ。
この服はホワイトロリータと言う系統の服だった。
少女によく似合っている。まさに“世界で一番かわいい女の子”だ。
「お、おう。」
「マキナはカワイイでしょ!」
「お、おう。」
「マ・キ・ナはカワイイでしょ!」
「あー……マキナちゃんはカワイイぞ?」
少女は満足したのか、指を弾く。
――パチン!
「あなたにとっては“初めまして”って事になるのかな?一度会ってるんだけど。」
「……どういうことだ?」
「ふふん!誰があなたのその体を作ったと思ってるの?“お母さん”って呼んでもいいんだよ?」
少女は喋るのが楽しいのか、無駄に言葉が多い。
そして確かに彼女の声は聞き覚えがある。
「……アナウンスはお前が?」
そうだ、これまでのアナウンスは全て目の前のこのマキナと言う少女の声だった。
「えー、それだけー?」
不満そうに言うマキナ。
彼女の言う言葉から、前にどこで出会ったのかを思い出さなければまともに話してくれそうにない。
「作った……俺の体を?……アバター……。」
そう言えば現実世界とそっくりな自分のアバターに何の違和感も持たなかったが、これはいつ設定したんだろうか?Vtuberで顔や体を隠していた奴らはその見た目に変わっていたような気もする……いいや、まて、財園はどうだった?
キャンディナ・キャンディベルとして活動していた財園はどうだった?
「茶色のローブ……そうだ、最初は皆茶色のローブで……そうだ!称号だ!称号を得た瞬間、服が変わったんだ!」
Vtuberだったキャンディナも現実世界の財園和雨の姿をしていたはずだ。
そう、称号を得ると同時、服装が変わると同時に財園和雨の姿になっていた!
それまではVtuberのキャラに寄せた顔だったのに。
顔は現実のものがそのまま使われているこのアバター。
どうしてこんな事にも気づけなかった?
こんなものに文句を言わなかった?
忘れていたんだ!キャラメイクの時のことを!
そして忘れているのはその時の事だけじゃない!
目の前の少女に関することも忘れている!
「気づいたんだ?やるじゃんショコレータ・ショコランティエ。さっすが【神】になったプレイヤーだね!」
マキナは嬉しそうに笑う。
「それじゃあ改めて……私の名前はデウス・エクス・マキナ。このミスティカ・アナザーワールドをゲームとして成り立たせるために作られた、人造天使だよ!」
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