ep2 あば与

ショコレータは思いのたけを吐き出してなお、その心の中を曇らせていた。


――バチン!


その音と共に転移する。

その場所はこのゲームで初めてNPCと話した場所。

想い出の場所。


「……大将、一杯。」


“らぁめんあば与”。

一杯50Cという安さが売りのスラムのラーメン屋。


「……お前か。具は持ち込まないのか?」


その言葉は、今の姿が変わり果てた自分を前に来た男ときちんと認識している証拠だった。


「わかるのか!?こんな見た目だぞ!?」


「ほら、さっさと食え。」


何の具も無いラーメン。

しかしそのスープは味わい深く、心にしみるような味だった。


「……こんなところに住んでればな、よくある事なんだよ。」


――ズッ!ズズッ!


麺を啜る音が響く。


「やれ、腕が無くなったとか、目が見えなくなったとか、足が折れただとかなんてのはな?」


「……俺は違うだろ?」


「まぁ、お前はいい男になったし、その目も見えてるんだろ?いいじゃねぇか。」


「いいだと!?」


「腕があるなら仕事ができる、目が見えるなら文字が読める。足があるならどこへでも行ける。よかったじゃねぇか、お前は見た目もよくなったし何が問題なんだ?」


「……それは、そうかもしれないんだが……。」


すっかり飲み干した器を見て大将が指でトントンと机を叩く。


「あ、あぁ。大将もう一杯頼む。」


「はいよ。それで?お前は何が不満なんだ?」


グツグツと音を立てる湯の中に面が躍る。


「……わからん。俺は人間だよな?なんか最近それがこう、納得できなくてな。」


「……人間だろ。少なくとも俺にはお前が人間にしか見えん。」


「でも俺、魔術で何でもできるぜ?心だって読める。」


「魔術師なんてそんなもんだろ?俺は貴族が嫌いだが狩人は好きだぞ?あいつらはたまに愚痴を言いに来るが、いい奴らだ。」


「いや!俺はそんな弱い魔術師じゃないんだって!こう、神様的な力が使えて……!」


――ドン!


「はいよ、おかわりだ。強い魔術師も弱い魔術師も同じだろ?使えないやつにとっちゃおんなじバケモノで、人間の仲間だ。」


「……人間ってなんだよ?」


おかわりの麺を啜る。

スープを飲む。

それを大将が見届けると口を開く。


「口があるやつだな。」


「……口?」


「口って言うのは言葉を吐いて、飯を食う為のものだ。それさえあればどんな奴でも人間だ。」


「……口、ねぇ……。」


「口がきけないやつはそりゃあもう死人ってやつだよ。ここじゃあそう言うやつが死んでいくんだ。」


スラムを眺める大将の目は、ここで幾人もの終わりを見届けただけの憂いがあった。


「……3杯目はいるか?」


「いや、いい。……もう充分だ。」


「そうか。……よかったじゃねぁか、腹も膨れたろ?」


「スープばっかでタプタプだぜ?」


「今度は具を持って来いよ!」


「前は持ってくんなっていったろうが!」


「強い狩人はいいもん食うんだよ馬鹿!」


「そうかよ!」


屋台から出て、ショコレータは晴れやかな顔でそれを取り出した。

一本の剣。

天剣。


【天剣を使用しますか?】


「当然答えは“イエス”だろ!」



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