最終章:夜明けを告げる号砲

ep1 ジェス・カーペンタリア

――バァン!


壁を蹴り、その苛立ちをぶつけた男は苦々しく吐き捨てるように言った。


「クソッ!ニコラスの野郎を殺した奴らに命を狙われるなんてなんて貧乏くじだ!ヴォケ!」


殺したのは自分だという事はわかっている。

だがそれはトドメを刺したという意味でしかないことも理解している。

だからこそ、あの女王と神気取りの男をどうすればいいかに思考を向けねばならなかった。


「ミスティカ・アナザーワールドを差し出して逃げるか!?ダメだ、こいつは人質でしかねぇ!」


ミスティカ・アナザーワールドを所持している限り、あの神気取りの男は人外へと近づいていく。

称号とはそういうものだ。

人々の願いによって作り変えられた魔術師は段々とそういう存在になっていくのだ。

過去、自分がある研究を発表したことで、その名を技術者内で轟かせた結果、称号を得て自分が恐ろしいほどの科学者になったように。


「あの男の自我を守っているのが俺のコレなんだからな!こいつが無ければあの男も自我が消えて本物の神様って奴になるだろうよ!」


だが、これを破壊しなければあの男は自我を取り戻せない。

この地球に生きている限り、あの男は神へとその体と心を変化させていく。

ミスティカ・アナザーワールド内に居る限りその変化は心まで及ばない。


「だったらどうする!?ニコラスが勝てなかったあいつに俺が勝てるか!?」


賢者の石に頼り切っていたのが敗因ではあったが、ニコラスはこの世界で最高の魔術師だったはずだ。

そんな男から見ても最高の才能を持った男に自分が勝てるか?


「あの女王様はこれを狙う、あの男はこれを守るか?……神になったらこんなものどうでもよくなるか?」


わからない。

だが一つ言えることはある。

自分にあの神をも超える力さえあればできること。


「あいつら全員……せめてあの男以外の全員を殺せれば……!」


あの女は手下が多い。

それらを全員殺しつくせばあとはミスティカ・アナザーワールドを破壊して男には神になってもらえばいい。

だがその女だけでもかなりの強さだ。

完成された魔術師はそれだけですでに人外なのだ。

自分のような半端な魔術師に対処できる力ではない。


「……力……そうだ!」


丸いオブジェ。

ミスティカ・アナザーワールドのサーバーであり、あの世界のを示した地球儀のようなそれを見てジェスは笑う。


「できる……!できるぞ!」


PCに文章を打ち込んでいく。

その内容をもう一度読んで自分の計画を立てる。


「これであの男を、いいや、魔術師全員殺してやれる!」


乾いた笑いがどんどん喜色交じりの興奮した笑い声に変わっていく。


「ハハハ……ニコラス!お前のおかげだ!これで俺は最高になれる!」


男の声は響く。

この世界を滅ぼすために。

独り寂しいこの部屋で。

神を打ち倒さんと、その音は響き続ける。

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