ep22 水の勇者
ショコレータが転移した場所には大量のけが人がいた。
「……“まずはけが人を治すか。”」
その言葉と共に周囲の人間たちは傷口が綺麗さっぱり消え、優しい寝息を上げ始めた。
「……。」
バンデットを除いて。
「グァー……ファー……グァー……ファー……。」
「そいつのいびきがそんなに気になるか?」
「“いや、いい。場所を移そう。”」
「派手な魔術が使えねぇ場所なら俺は負けねぇ!“今”しかねぇだろ!?」
アンドレ・メッセンジーがそう言って駆け寄る。
周囲には眠る人間が多い今、ショコレータが大規模な魔術を使えないはずだからこそ、“今”なのだ。
水の鎧は強力な攻撃力には無力。
そして自身の持つ切り札も、バレる前に使わなければならない。
――パチン!
拍手のような音がする。
それと同時、二人はさらに転移する。
「ここは……どこだ?」
駆けだしていた体勢のまま転移したせいで一、二歩歩いたところでアンドレが止まる。
「“ここは南鳥島。日本の東端だ。”」
「な!?そんな場所に!?」
一瞬で移動してしまったと同時、唖然とする。
「“お前の魔術はもうバレていることを教えてやる。”」
「は!?」
「“お前の魔術は水を操る魔術だ。お前は目に映らないほどの、霧より細かい水滴を操作することで風の鎧を作っているように見せた。”」
「おいおい!?水でどうやって!」
「“切り傷を付けたか?ウォーターカッターは強力な水流によって物体を切断できる。それをお前は目に見えないほどの水滴で行っているに過ぎない。”」
「……。」
「“素晴らしいコントロールだ。執念すら感じる。目に見えないほどの水を操るなど……頭のおかしい集中力だ。”」
「……。」
「“そしてそんな魔術を使うのに時間がかかるのもわかる。今お前が必死に俺を殺そうと魔術を用意しているのも手に取るようにわかる。”」
「……!ばれてるのかよ!」
不可視の斬撃が襲い掛かる。
空気中の水分が一筋の糸のように流れショコレータを殺そうと襲い掛かる。
「“水で俺は傷つかない。”」
その言葉と同時、アンドレの魔術はショコレータへと近づかず、消える。
それは魔術師であるアンドレ自身が一番理解できた。
「バケモンじゃねぇか……こんなバケモン、生きてていいわけねぇ……!」
「“自分でもそう思う。でもこの世界は残酷で、まともじゃないんだ。”」
ショコレータが腕を向けると、アンドレの体は不可視の何かに捕まれ浮いていく。
「ぐ……あぁ!……はなせ……!?」
――ビリビリィ!
アンドレはその身に着けたものを全て剥ぎ取られ、産まれたままの姿になる。
――パチン!
アンドレはその音と共に転移していた。
「ここは……!?」
目の前にはクラクションを鳴らす自動車。
そして見覚えのあるカジノ。
ラスベガスの交差点だった。
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