ep17 開戦
「彼にはありえない才能がある。それは……“自分の強い願いによって自身に称号を付ける才能”だ。」
その言葉を放ったニコラス自身でさえ、それを認めるのは難しかったらしい。
彼は興奮しながら語った。
「彼は人間離れした才能を持つ存在だった。彼はただ、自身の自己顕示欲のためにVRゲームの界隈に名を轟かせようとした。そんな自分に彼は“最強VRゲーマー”であれと願ったはずだ。そしてそれによって彼は魔術師となり、VRゲーム世界で最強となった。他者の願いを介さずに魔術師になる才能。まごうこと無き化物だよ。」
「……彼が現実世界で私に簡単に組み伏せられたのはVRゲーム以外の場所ではその称号の効果が及ばなかったから?」
「当然。彼の過去の映像を見ればわかる。彼は複雑な体術も心理学に近い先読みも、どんな技術であろうと“VRゲームの中なら”再現し、それを超えることが出来た。なぜそれが現実世界で使えない?」
「筋肉量なんかでできない事はあっても、ほとんどの技術は現実でも使えないとおかしい……考えてみればその時点で彼は異常だった。」
「そんな彼がミスティカ・アナザーワールドという“異世界”で自らの欲望……“願い”を持った。それは自己顕示欲の肥大した彼の“神のように崇められたい”という“願い”であり原点だった。」
「もう充分ね。……彼を救えるのは彼自身。それさえわかれば後は簡単。」
――ブゥン!
「彼にあの世界は要らない!お前を殺して“ミスティカ・アナザーワールド”を終わらせる!」
テレポートとインファイトを無詠唱で発動させた財園はニコラスの顎を魔後ろから蹴り抜いた。
――ブッ!
首から上が吹き飛び、ニコラスの首がゴロゴロと転がっていく。
それを再び転移した財園が蹴り砕く。
――グシャ!
水分の混じった破裂音と共にニコラスの首が破裂したように見えた。
何度もその首の残骸を踏みつけると、やがてその中に堅い音が混ざる。
――ゴッ!
「なかなか酷いことをするじゃないか。“淑女”の名が泣くぞ?」
首だけが完全に再生したニコラスが彼女の靴裏で口元を歪ませながら声をかける。
「バケモノ……!」
「不老“不死”なものでね?」
「和雨さんどいて!」
――バスバスバスバスバスバス!
人形腕を数十個展開して斉射するアルア。
彼女は倒しきれる自信を持って叫んだ。
「POWERが高い高RANK同士の戦いは相手がスキルを使えないように大ダメージを入れて、回復させないように殺し続ける事がセオリー!ゲーム内の仕様が魔術師同士の戦いのセオリーならこれで倒せるはず!」
――バスバスバスバスバスバス!
「確かにその通りだ。魔術師は人々の願いによって成るもの。故に優れた魔術師は人の願いによって修復され、病気やけがを負うことも無くなっていく……が。」
砂煙の中から現れたニコラスは無傷だった。
「なぜ私が賢者の石を求めたと思う?不老不死になる為?それは副次的効果にすぎん。不老不死とはミスティカ・アナザーワールド風に言えば無限のPOWER《命》だ!この石を持つ“ニコラス・フラメル”は全ての魔術を、魔法を!使用でき、決して死ぬことのない神なのだ!」
ニコラスは叫ぶ。
「勇者?英雄!?どんな存在でもこの私を殺すことなどできん!私は決して傷つかない!私は決して敗北しない!どれだけの人間が求めたと思う!?王だろうが何だろうが、不老不死に憧れ、欲し、その存在を願うのだからな!」
――ダァン!
「それでも、私は彼のためにあなたを殺すわ。」
完成された魔術師同士の戦いが、始まる。
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