ep11 ニコラス・フラメル
株式会社ゾシモス。
今現在、その場所は一種のパニックになっていた。
「ボクに殺されたくなければ!今すぐ社内から退避しなさい!」
空中から多数の腕を向けている少女。
その傍らにいる日本王国女王財園和雨。
「これでもうこの会社に人間は存在しない。」
「和雨さん、今9階まで人形腕を送り込んでみたんだけど、やっぱり8階なんてないよ?」
「それでいいのよ。この会社に勤めた人間だけがその存在を知る8階。それはこの建物に存在しないはずよ。」
――パリン!
――パリン!
「……7階と9階から腕を出してみたけど、やっぱりその間に階はないね。」
「つまり8階を探すにはこのビル全部ぶっ壊さないとね。フフフ……“テレポート”!」
ビルが30m上空へ垂直に転移する。
――ガァン!……ガラガラガラ……。
ビルが砕け、どんどんそのビルは瓦礫へとその姿を変える。
数度それを繰り返し、やがてビルは消え去る。
「和雨さん……やっぱりこのビルに隠し部屋なんてなかったんじゃ?」
「いいえ、見なさい。あれを。」
ゾシモスのビルがあった場所。
そのちょうど7階のあった場所と9階のあった場所の間に黒い線が一本入る。
――ズズズズズ……。
その黒い線が開いていく。
そこから見える景色は生活感を感じさせる一室。
こたつと巨大な球体のオブジェ。
そしてその中からこちらを見つめる二人の男。
ジェス。そしてニコラス。
「やぁ、こうして面と向かって話すのは初めましてだね。女王様?」
ニコラス。
かれは余裕たっぷりの表情でそう声をかけた。
「その声、ニコラス・フラメルとか名乗っていたかしら?」
「そうだね。それにしてもこんなことをして……どういうつもりだい?私たちは対等な条件で協力関係を結んだはずだけど?」
「フフフ。そうね。だけどそれは“お互い隠し事なしの状態”じゃないとね。あなた達の目的は何?」
「もうすでに完成された魔術師となった君には語ってあげよう。私たちの目的は“神秘の時代の到来”だ。それ以外の目的などない。」
「……“神秘の時代”?」
アルアがその単語に違和感を感じる。
「ねぇ、ボクわかんないんだけどさぁ……こいつらのせいでみんなが魔術師になったんだよね?」
「えぇ、そうよ。」
「でもさぁ、あんなことが出来るなら元からあいつらって魔術師でしょ?なんでわざわざ魔術師を増やしたの?自分だけが魔術師ならそれこそ和雨さんみたいに国でも取れたんじゃない?」
「ハッハッ!そうだな、わからんよなぁ!なぜ“神秘の時代”を求めたのか。その答えがこれだ!」
ニコラスがその手に赤い石を掲げ持つ。
その石は一目見たものを魅了し、その石から視線を外しがたい存在感を感じる。
「“賢者の石”。この私の生み出した不可能を可能とする魔術の到達点!この石一つで世界はわが手の中にあるも同義!神にすら匹敵する至高の力だ!」
「賢者の石……。」
財園和雨はその石を“脅威”として見ていた。
ニコラスの話を聞く限り、あの石のために“ミスティカ・アナザーワールド”による魔術師の生産は行われたという事になる。
それはつまり、自分たち魔術師に命を狙われても問題ないほどにあの石は恐ろしい何かを秘めているという事になる。
「フフフ……伝説では……不老不死の霊薬や卑金属を金へと変えた石。だとしても、それが何になる?」
「そうだね。その逸話は私が残したものだから真の使用方法には言及されていない。」
ニコラスは笑いながらそう言う。
「私が残した……まさか!?」
「当然、私こそ賢者の石の製作者、ニコラス・フラメルその人だ。そして、私は賢者の石によって不老不死の存在となった。私は至高へと至ったのだ。だがそれは“神秘の時代”に限定されたものだ。」
「おじいちゃんは不老不死を維持するために“神秘の時代”を求めた?そもそも“神秘の時代”ってなに?」
アルアは思った疑問を口にする。
「いや、そもそも何をすれば“神秘の時代”がやってくるのさ?」
アルアの疑問にニコラスは笑顔を崩さず答える。
「ここに一枚のコインがある。」
賢者の石の代わりにコインを取り出してそのコインを見えるように掲げる。
「コイントスをして表が出れば人類が滅び、裏が出れば人類は幸せになる……とする。」
「はぁ?」
「表が出る可能性はいくつだ?」
それに答えたのは財園。
「重心がきちんと中心にあるなら50%よね。」
「だがこれが“神秘の時代”であるならば必ず裏が出るのだ。」
「はぁ?そんなわけないじゃんバカじゃないの?」
アルアは既にニコラスの事を怪しい宗教の教祖ぐらいに思っていた。
「無知なものに知を授けるのは気持ちがいいな。ジェス、お前もああして疑問に思ったことはすぐ口にした方がいいぞ?」
「……うっさい。」
「まぁ、疑問には答えてやろう。そもそもお前たちは魔術師でありながら“ミスティカ・アナザーワールド”を利用したせいでその原点を知らない。」
「原点?」
「この世界は人の意志によって造られた仮想世界なのだよ。」
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