第6章:日没願う傲慢たる戦乱
ep1 神秘の時代開幕
株式会社ゾシモス8階。
そこはこの世から切り離された空間。
魔術師アレイスタークロウリー、またの名をゾシモス、あるいはニコラス・フラメル……歴史に何度も名を残した男の魔術によって切り離された別次元に位置する研究室。
そこでは二人の男が目の前の小石の輝きに魅了されていた。
「これが……“賢者の石”……確かにこれは水銀の結晶なんかじゃない、別のものだ。」
感動に打ち震え、ジェスは目の前の小石に手を触れようとする。
「まて、これはきちんとした手順を踏まなければ身の破滅だぞ?」
そう言ってジェスを止めたのはニコラス・フラメルその人だった。
「さて、これが完成したということはもうこの世は”神秘に溢れた時代”と言うわけだ。」
ニコラスが軽く手を叩くと空中に映像が流れ始めた。
「神が仰っているのだ!かの国、日本王国を滅ぼせと!日本を取り戻せと!」
「その通りだ!その為に我らに魔術を与えてくださったのだ!今こそ、日本王国に宣戦布告を!」
「「「「「「「宣戦布告を!」」」」」」」
そこに映し出されていたのは先進国による会議の様子だった。
彼等は共に、日本王国を打ち倒さんと決起したのだった。
「……なぁ、ニコラス。もしかしてこの世界って意外に馬鹿なのか?」
「そう言うな。面白いとは思わないか?魔術師・財園和雨が誕生したことで日本の鎖国すら許し、静観に努めていた奴らがいざ、自国に魔術師が生まれてきたら日本を倒そうなどと言い出すのだぞ?」
「それが馬鹿じゃねぇのかって話なんだが……勝てないだろ?あれじゃ。」
「そうかな?私は可能性としては2割位ならあると思うんだがね。」
「いやいや、いくら何でも“ミスティカ・アナザーワールド”みたいな魔術師を育てる道具無しで、魔法に手を出せるようになっただけの奴らが勝てるかよ?」
「ハッハッハ!おいおい、ジェス……君自身理解していると思うのだがな?」
ニコラスは笑い、ジェスの目をじっと見つめる。
「……いや、魔法と魔術じゃ勝負にならないんだろ?火の玉を撃てる魔法使いと魔術師が戦ったら、魔術師が火のミサイルを作って勝つって話だったじゃん。」
「そうではないよ。確かに魔法使いは魔術師には勝てない。だが魔法使いはあくまで魔術師の卵だという事さ。そして一たび魔術師へと至れば後はその身に神秘を宿せばいいのだ。戦争が起こるなら確実に生まれるぞ?新たな英雄、勇者がな。」
「英雄……勇者?」
「魔術師とは元々古代ギリシャのマギア、ゴエティア、ファルマキアから派生したものだ。マギアは神を信じ、その行いである災害や神秘的事象……所謂魔法を行う人間を神官としてマギアという名を付けたことに端を発している。」
「古代の魔術師は神官と呼ばれてたってことか?」
「
「……?魔術師のルーツが魔術師と詐欺師と薬師ってことか?」
「まあ、そう言っても問題はないだろう。だが今必要なのはそこじゃない。魔術のルーツというのは人の“格”が重要だということだ。」
「人の“格”?」
「そうだ。神官とは支配者階級の血筋と言う事、シャーマンとはでたらめを言って場をとりなすだけの権力者であること、そして薬師とは命を救う技術者と言う事。そのどれもが古代ギリシャにおいて“力あるもの”だったわけだ。」
「それが何になるって言うんです?」
「魔術師の条件は何だ?言ってみろ。」
「あー、前言ってましたっけ……【大衆の“願い”、言い換えれば“欲望”、言い換えれば“羨望”であり“崇拝”ともいえる。そういう大衆心理が生み出すのが魔法であり、これを特定の形へと作り変えるのが魔術師であり、魔術なのだ。】……って言ってましたっけ?」
「そうだな。だがそれは魔法使いと魔術師の区別の話だ。私は言ったはずだぞ?“この人なら大衆心理を超えていける”と大衆が認めるような人物でないといけないのだよ。……とな。」
「あ!そこにかかってくるのか!古代ギリシャにおける“力あるもの”つまり魔術師が魔術師足り得た理由……”人の格”がそれか!」
「そうだ。そしてこれを今の状況に合わせて言えばこうなる。全世界にその結末を知らされる状態で”力あるもの”であることを示すものは魔術師になる……つまり。」
ニコラスがニヤリと笑って言葉を区切る。
「戦場で目立つ者は魔術師になれる。」
その一言の後、ニコラスは笑う。
「だがもちろん、これは日本王国でも同じこと。魔術師から英雄が生まれればその先に待つのは私のような“完成された魔術師”だ。そしてその武勇は新たな英雄を産み、また一歩神秘の時代へと世界を変えていくのだ。」
ジェスは気付けなかった。
ニコラスが今言った言葉には“魔術師”、“完成された魔術師”、そして“英雄”と、3つの存在を示唆していたことに。
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