ep19 金の街と銀の星
――ギィン!
金属同士がぶつかり合う音が意識を覚醒させる。
――ギィィィ……カァン!
「これは……戦場か?」
周囲には大量の天族と魔族が争い合っていた。
互いに武器を振るい、敵を切り伏せ叫んでいた。
「ゲンデイール!貴様ぁぁぁぁぁ!」
「お前だけは殺してやる!何度でも殺してやる!」
その中でも一際目を引くその姿。
大きく前方にせり出した巻き角、4対8翼の翼を翻しながら叫ぶ男とそれに対して一歩も引かずに戦う魔族。
大きく肥大化した両足と前方へ大きく前傾した姿勢を支えるための巨大な尻尾、水銀のようなものでできた巨大な一対の翼。
「あれが……【銀纏星将】ゲンデイール……。」
「あれが【金壁八双】プロモテウス……。」
周囲の天族と魔族がそれぞれ呟く声を聞く。
「インセールを殺したお前を俺は決して許さん!」
天族の男、プロモテウスが叫ぶ。
黄金でできた槍が何本も地面を突き破り、ゲンデイールを殺さんとばかりに襲い掛かる。
「殺したのはお前だ!お前が殺した!」
ゲンデイールもまた、銀の翼を変形させて前方へ針のようになって伸びていく。
「違う!お前が!お前がぁ!」
金の壁が地面から現れその針を防ぎつつ、壁を踏み台に跳躍したプロモテウスが接敵する。
「ふざけるなよ!お前が彼女にしたことは決して許されないことだ!」
ゲンデイールは翼の先を鋭利な刃物のように光らせて迎撃する。
「先にしたのは貴様だろう!“
踏み台にしていた金の壁がプロモテウスの右足に纏わりつき、ドリルのように逆巻き、ゲンデイールの翼をガリガリと削り取る。
「俺が何をした!?お前は彼女に何をした!?“
ゲンデイールの翼が片方消失し、右の翼がその分一気に肥大化した。
槍のような姿となったそれがプロモテウスの金を砕いていく。
「何もしていない!これからだったんだ!これからだったんだよ!それをお前がぁ!」
プロモテウスの首元に光が見えた。
ネックレスに通された一組の指輪。
「あれは!?」
とうとう見つけたペアリング。
その持ち主はゲンデイールではなくプロモテウスだった。
「それを彼女は求めていなかった!愛がほしかったんだ!ただひたむきな愛が!」
ゲンデイールがその目元に光る粒を浮かべながら叫ぶ。
「愛ならあったさ!お前ごときにはわかるまい!俺がどれだけ愛していたかなど!おまえなどには!」
プロモテウスの言葉にゲンデイールは叫ぶ。
「お前に彼女を、インセールを愛するだけの想いがあったなら!彼女は泣かなかっただろう!」
「お前のせいで泣いたのだ!」
「彼女は泣いていた!それはお前のせいだ!お前が!お前が本当に彼女を愛していたというのなら!これを超えて見せろ!」
ゲンデイールはその強靭な足によって天空高く飛びあがる。
「“銀星将来”!」
ゲンデイールの鎧が、翼が、武器が、彼が纏う銀が全て彼のかざした掌に集まっていく。
それはまさに、“銀の星”と呼ぶにふさわしいものだった。
波打つ球体は段々とその大きさを増していき、瞬く間に地上に影を落とした。
「“金壁城塞”!」
プロモテウスの周囲から次々と壁が生えていく。
まるでそれは黄金の摩天楼のようだった。
黄金の街に銀の星が降り注ぐ。
「これしきの事でぇ!俺の黄金郷が滅んでたまるかぁ!」
銀の破壊が金を飲み込んでいく。
それを押し返そうと突き上げる黄金の街。
「お前の愛は!所詮その程度のものなのだぁ!」
銀が全てを押しつぶす。
落ちたその星の残骸に、一人の男が立っていた。
男の名はゲンデイール。
【銀纏星将】ゲンデイール。
倒れ伏す男の腰から剣を奪い、彼の誇りを奪い去る。
倒れ伏す英雄の首からその男の生きた証を引きちぎり、寂しい背中を向けて歩き去る。
彼の名前は【銀纏星将】ゲンデイール。
メンデール家の家臣にして、一人の男である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます