ep16 語る言葉に想いを込めて

体を揺すられる感覚を覚え、目を覚ます。


「んっ……誰だ?」


目を覚ましたショコレータの目の前には一人の少女がいた。

魔族らしい異常に発達した足、尻尾。

それでいて、美人と呼べる程度には肌艶はよく、たれ目がちな眼差し。

そう、ミスティ・メンデール、サブクエスト【絶望抱く高潔の称号】を生み出した女だった。


「またこんなところに居るなんて、馬鹿じゃないの?」


「”サイコメトリー”。」


これでもうこの女は嘘をつけない。


「何?」

”依頼を受けたんだからさっさと大陸に帰れこのボケ猿!”


表情と言動に反してそんなことを考えているなんて……そう思った。

だが、これでこの女が真実を隠していることが分かった。


「あぁ、ちょうどよかった。お前に会いたかったんだよ。」


「え?なにかありましたの?」

“私は猿の顔なんて見たくなかったわ!身の程を知れ糞猿!”


「お前が調べてほしいって言ってたこの指輪。……返してもいいか?」


「え!?依頼は受けていただけないんですか?」

”ふざけるなよ猿が!お前は指輪を持って消えればそれでいいんだよヴォケ!”


「いや、思えばこれは亡きゲンデイール将軍の遺産だろ?そんな貴重なものを預けられるのはどうかと思ってな?」


「滅相もない!ゲンデイール将軍の遺産の謎をつまびらかにするのは我がメンデール家の悲願!そのためならそんな指輪がどうなろうと構いませんとも!」

”さっさとその邪魔な指輪を持って消えろって言ってんだよヴォケ!”


「じゃあ、これ持っていくけどさ……ゲンデイール将軍について色々教えてもらえないか?」


「将軍についてですか?」

”まぁ、帰ってくれるならまぁ……。”


「あぁ、頼んだ。」


「ゲンデイール将軍の話と言っても……何を話せばよいのやら……。」

”適当に有名どころの話をすればいいか。”


「そうだな……メンデール家の家臣になったその当時の話って聞けるか?」


悪夢から得られる情報はあくまでゲンデイールにとって良くないことだ。

ならばゲンデイールが自ら望んで行ったことを知ることは無い。

だから聞くべきは彼が望んで行ったことなのだ。


「家臣になったときの話かぁ……話ねぇ……。」

”あんまりそれっぽい英雄譚じゃないんだよなぁ……。”


「別に派手な話を求めてないんだよ。ただ、そんなに強かったゲンデイール将軍がどうしてメンデール家の家臣になったのか気になっただけなんだ。」


「まぁ、それなら……。」


ミスティはもう、嘘をつくことは無かった。

本当にそう聞かされてきたのがわかるほど、その声はもう、重なって聞こえることなどなかった。


「とはいっても、あんまり詳しくはないのだけどね?さすがにもうゲンデイールが生きていた頃のことを知ってる人なんていないし。」


「それでもいい。頼む。」


ゲンデイール将軍の過去。

先ほどの悪夢は幼少の頃の話だろう。

そして天族の女、いいや……母親。

複雑な関係のはずの二人に何があったのか。

それを知るには、魔族の4大公爵家へと仕えることになった理由を聞けばいいはずだ。


「ゲンデイール将軍……いいえ、当時はただのゲンデイールがメンデール家に仕えることになったのはある戦いがきっかけだった。」


そんな風に話は始まった。

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