ep15 依存

天族の女と小さな子供。


「ゲンデイール?」


そうだ、この悪夢はゲンデイールにとっての悪夢なのだ。

つまりこれは。

この子供は。


――バン!


扉を強く閉め、手を伸ばしていた子供の腕が挟まれる。


「いたい、痛いよお母さん!」


「チッ。」


舌打ち一つ、少し開けた扉から腕を引っ込めたゲンデイールの目の前で扉が閉まる。


「うぅ、うぅ!……あぁぁ!」


嗚咽の混じった鳴き声が路地に響く。


「お母さん?……ゲンデイールは魔族の将軍なんだよな?……どういうことだ?」


ゲンデイールは何も着ていなかった。

泥と砂に塗れたその体には細かい傷がついており、痛々しく血が流れている。


「……これは!」


泣きじゃくるゲンデイールの背中には、存在してはいけないものが存在していた。

小さな翼。

それも根元から引きちぎられたような跡がある。

それに気づいて頭をよく見れば、角があったであろう場所に小さな突起があった。


「ゲンデイールは天族だった?……いや、でも。」


肥大化した足と尻尾は魔族の証。

こめかみの角と羽根は天族の証。


「どちらも持って生まれてきたのか……父親は?」


いや、今必要なのは情報だ。

ゲンデイールの情報を集めるのが目的なのだ。


「ぐっ、うっ……。」


ゲンデイールが動いた。

扉には鍵がかかっていないようで、一人で出入りできるらしい。


「鍵を閉めていないのか?なんで?」


先ほどの様子を見るに、母親はゲンデイールに対してネグレクト、育児放棄に近い環境なんじゃないかと思っていたのに。

見ていると、ゲンデイールは体を洗い、二人分の食事を作っていた。


「二人分……?」


ゲンデイールはそれだけすると、そわそわとした様子で歩いていった。


「追わないと!」


ゲンデイールが歩いていったのは薄暗い部屋だった。

そこにはベッドがあり、周囲には小さな羽根が舞っている。


――モゾ。


ゲンデイールはそのベッドに潜り込み、中で眠る相手を抱きしめる。


「お母さん。……ごめんなさい。」


二人とも眠ってしまったようだ。

二人の寝息が薄暗い寝室に響く。


「……ゲンデイールは母親に対して悪感情は無いのか?」


それはそれでおかしなことだ。

こんな関係はあまりに歪で、ありえないものだ。

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