ep12 異変
財園グループ本社ビル正面。
今日もまた、たくさんの人がやってきて何事か叫んでいる。
「財園グループの横暴を許すな!」
「俺たちの街を返せ!」
「誠実な社会に!誠実な競争を!」
……日本王国の建国によって確かに様々な部分が変化した。
それは例えば電力会社の東西を一つにまとめたり、不要な交通機関の削減であったり。
元々財園グループが一枚かんでいた産業分野ならそれを財園グループ一本に絞ったり。
結果的にかなり社会というものが簡略化されたと言える。
「また集まってるよ……。」
「あんな事してる暇があったら仕事探せばいいのにね。」
「大体、補助金とかそういうものはちゃんと申請したら貰えるだろうに、なんでデモなんて起こすんだか……。」
財園グループの社員を筆頭とした普通に働いている人間はこういった意見が大部分だ。
自分たちの生活は問題ないからこそ、“長い物には巻かれろ”という思考になるのだ。
――ダン!
空中から男が降ってきた。
手足に付けられた枷……鉄球が地面に当たり大きな音を立てた。
その音が、衝撃が人々の視線を一つにまとめる。
「財園グループ魔術師隊、ショコレータ・ショコランティエだ。デモを解散し、おうちに帰ってもらえるかな?」
全身を覆う黒いスーツと手足に嵌められた枷が彼の今の姿。
「財園グループの犬が!」
「お前にはわからねぇだろ!仕事を奪われた俺たちの気持ちなんてなぁ!」
罵詈雑言がショコレータを襲う。
しかしそれも涼しい顔で聞き流す。
「……“サイコメトリー”。なるほどな。」
ショコレータは次々とデモを行う市民から選んで前に呼び出していく。
「お前とお前と、あとはお前。ほら、安心してください。何も悪いことはしませんよ。」
口調が変わる。
ショコレータがショコレータで無くなるような感覚。
「この方たちはこれまで数年にわたって国をだまし、補助金で生きてきていた方々です。こんな方たちにわざわざ無駄なお金を出す理由はありません。この方々以外には当面の間生きていくための仕事を提供しましょう。」
前に呼び出された者はそんなことは無いと叫ぶが、ショコレータには全て見られている。
「デモなんてしてはいけませんよ。こんなことをしたところで本当の“安心”を得ることは無いのですから。」
一人ずつ丁寧に対処していくショコレータは彼等にとっての救世主だ。
仕事を割り振られるだけならともかく、心を読みながら適切な職場を紹介されるのだから。
「これで家族を養えます!ありがとうございます!」
「これから会社を興す方は補助金をしっかり使うように!財園グループのホームページから申請が可能です!」
これを伝えることでデモは鎮圧できる。
皆仕事を追われた身だからこそ、困っているのはお金の稼ぎ方なのだ。
「全く、嫌になるね。」
そう呟きながら財園グループのビルを見上げる。
財園はこれを見ているのだろうか。
「でもまぁ、少しづつだけど元の社会に近づいている、ってことかね?」
日本王国。
財園グループが支配したこの国を、守らねば。
私の国、私のための国。
「さぁ、皆さん。安心してください、私が居ますから。幸せな暮らしはもう少しですよ。」
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