ep11 財園の推理
現実世界・とあるシェルターの一室。
「んっ……。」
目を覚まし、冷蔵庫へ向かうショコレータ。
――ヒシッ!
背後に転移してくる財園。当然のように腰に手を回される。
「ん。」
慣れた手つきで腰に回された腕をほどきながら麦茶を出して飲む。
「フフフ。そんなに飲んで大丈夫?」
手枷足枷おしめに全身を覆うスーツ姿のショコレータにそんなことを言う財園。
「どうせおしめに漏らすんだから気にする方が馬鹿みたいだからな。」
「お漏らし受け入れ系男子だね!……フフフ。」
明るく言われるとキャンディナを演じていた時のキャラを思い出す。
糞が。
「で?そっちはどうなんだ?」
「フフフ。サブクエストを見つけたわ。まぁ、調べ物をするタイプだから時間こそかかるかもしれないけれど。」
「……そっちも見つけたのか。」
まさか2日でお互いサブクエストを発見するとは。
「フフフ。【貧する者を喰らう者】ってクエストよ。そっちはアルアと一緒に見つけたのでしょう?」
「聞いてるのか。まぁ……【絶望抱く高潔の称号】って名前だな。」
「あら?アルアは【白銀纏う高潔なる意志】って言ってたわよ?」
「んあ?俺もアルアも同じタイミングで、同じ条件で発生したんだから同じクエストだと思ったんだが……ゲンデイールに関するサブクエストをこなしていたからか?」
「……そう言えば【下水の姫と小さな翼】でその将軍の恋人を殺していたかしら?それが原因かもね?」
“高潔”という単語がどちらにも入っているからゲンデイールはそれが似合う男なのだろう。
「白銀纏うっていうのはゲンデイールの称号【銀纏星将】から来ているとして……本来はゲンデイールの過去を探るだけっぽいな?」
「そうなると“絶望抱く”と“称号”っていうのが変化した部分ね。フフフ……恋人を殺した相手に出会うことで“絶望”するのかしらね?」
「……そうなると間違いなくボスはゲンデイール将軍じゃねぇか。」
「そうでしょうね。……それにしても二人も居て気づかないものなのね?」
財園は笑いをかみ殺しながらそう言った。
「……何かあったか?俺には思い当たるところが無いんだが……。」
「馬鹿ね。どうしてミスティだっけ?あのNPCに“サイコメトリー”を使わなかったの?」
そう言えばあのNPCにも“サイコメトリー”を使えるのか。
戦闘時に使う意識が強すぎて忘れていた。
「いや、正直最近“サイコメトリー”を使うと変な気分になるんだよな?」
「だからって使うべき場面で使わないのはダメよ。それに……。」
「それに?」
「あの女は確実にあなたたち二人に本気であの指輪の秘密を調べさせる気は無いわ。」
「……?」
「だって初対面の魔術師にそんなある種の“家宝”に近いものを預けるとおもう?」
「いや、そう言うクエストだから……いや、そう考えない方がいいのか。」
「武を司る貴族が“過去大きな戦果を挙げた兵士の遺産”なんてものをどう思っているかなんてわかりやすいものよ。」
「邪魔だと?」
「そうね。だから魔術師という、もう“デビル・フロント”へ来ないかもしれない相手に指輪を預けた。そして元の大陸へ帰らないといけないように思わせた。そう考えたほうがいいわ。」
「じゃあつまり、あの地図もでたらめだと?だとしたら情報なんて……。」
「あるじゃない。指輪について確実に何かを知っていて、現存していて、かつ会いに行けばすぐ会える相手がね。」
「いや、アレに意思疎通はできないだろ?」
もうすでにショコレータの脳裏に一つの対象が浮かんでいる。
墓石の裏、巨大な銀の塊。
「ゲンデイールがボスとして現れると思うなら墓に行けば会えるでしょう?」
やはり、そういう考えか。
「でも起こせないんだろ?そういう話じゃん?」
銀の特殊な性質によって傷がつかないというのは……。
「生きているのならあの銀の中で眠っているのでしょう?あなたは悪夢を見せることができる。」
「……悪夢の共有はできないはずだぞ?」
「それはどうかしら?あなたのサブクエストの内容を考えれば十分あり得ると思うけど?」
「じゃあ……墓の前で悪夢を見せてその悪夢を俺が見ると?」
「悪夢の時点で起きるかもね?……フフフ。適当なことを言ったけれどまぁ、間違っては居ないと思うわ。」
「そうか……。」
ポン。と肩を叩いた財園は話を終わらせた。
「と、いうわけでゲーム内の話は終わり。“お仕事”の時間だよ。」
「おう、まかせな。」
「“テレポート”。」
こうして久しぶりに娑婆の空気を吸いに行くのだった。
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