ep9 絶望抱く高潔の称号
その少女は花束を抱えていた。
魔族らしい異常に発達した足、尻尾。
それでいて、美人と呼べる程度には肌艶はよく、たれ目がちな眼差しは二人を見つめている。
「“お墓”って言いました?」
ショコレータは目の前の相手からとにかく情報を得ようと言葉を交わす。
「あぁ、知らないんですね?この公園は【銀纏星将】ゲンデイールという英雄が眠る場所なんです。」
「ぎんてんせいしょう?……銀を纏う星の将軍と書いて銀纏星将ですか?」
「そうですそうです……あぁ、魔術師なんですね?なら知らなくても仕方ないかな?」
彼女は公園の奥へと歩きながら話し始めた。
「私は4大公爵家の一角にして武を司るメンデール家の3女、ミスティ・メンデール、まぁ魔術師にまで敬えとは言いませんからミスティとでも呼んでくださいな。」
「ねぇ、3女って言うならそんなに偉くないんじゃないの?」
アルアが早速不敬罪で捕まりそうなことを言う。
「ハハ……まぁ、3女だから継承権もなく、武力もあるわけじゃありませんからあまりへりくだらなくていいですよ。」
「じゃあミスティはさぁ、ボクらになんで声をかけたの?」
ずけずけと質問を重ねるアルアにミスティは丁寧に答える。
「この公園はあまり人が近寄りませんから……ここにあるのはゲンデイール将軍の墓だけですし。」
「そのゲンデイール将軍っていうのはどんな人なんだ?」
ゲンデイール。
ショコレータはその名前を憶えていた。
下水道ダンジョン、その最奥で発生したサブクエスト。
【下水の姫と小さな翼】のボス、【罪人】インセールが繰り返していた名前だ。
「すごい人ですよ、我がメンデール家の家臣の中でもっとも有名な将軍です。」
「……ん?メンデール家の血族ではないのか?」
「えぇ、しかし彼は天族との争いの中その力によって何度も我らを勝利へと導いた方です。故に彼の奇行を放ってここに埋めてある……ということになってます。」
「奇行?……放ってここに埋めてるってことはまさか……生きているのか?」
「墓なんだから生きてるわけないじゃん。ボクはむしろ“なっている”って言い回しが気になるんだけど?」
「えぇ、そういう疑問が出るでしょう。しかしそれもまぁ、実物を見ればわかりますよ。ほら。」
公園の最奥へとやってきた3人の目の前には墓石が立てられていた。
【銀纏星将】ゲンデイール此処に眠る
そう書かれた墓石の奥に置かれた銀色のオブジェ。
卵型のそれは2メートルをゆうに超える大きさで、地面に半分ほど埋まった状態だった。
「これが【銀纏星将】ゲンデイールです。」
「……この銀の卵みたいな奴の中に?」
「えぇ、彼はこの数百年もの間、ここにこうして眠っているのです。」
「……生きているのか?」
「そうとも言われていますし、死んでいるとも言われています。」
「ねぇ、それならこの銀色の部分を削ればいいんじゃないの?」
それは至極まっとうな意見だと思われた。
ショコレータ自身、そうすればいいと思ったのだから。
「無理ですよ。この銀は【銀纏星将】ゲンデイールの操る“白銀”と呼ばれる物質なんです。これはとても特殊な形質を持っていて、自身より柔らかいものには硬く、自身より硬いものには水のようになって取り込む性質を持っているんです。」
つまり柔らかいものでは傷がつかず、硬いものでは沈み込んでいって傷がつかないというわけか。
「……つまり、さっきの話はこういうことか?“白銀がその性質を未だ持っているのだからゲンデイール将軍は生きている”という可能性があり、しかしそれは調べようがないことだと。」
「加えて、数百年この有様ですから。恩のある我が家ですら私くらいのものです、ここに花を供えるのは。」
「……そうか。」
花を供え、彼女は意を決したように口を開く。
「一つ、お願いを聞いてもらえませんか?」
【SUB STORY QUEST】
【絶望抱く高潔の称号】
【このクエスト中は自動配信がオフになります。】
【クリア時公式サイトにて攻略風景が配信されます。】
【また、サーバー内でクリア者が出た場合、以降このクエストは消滅します。】
【SUB STORY QUEST START】
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