ep8 アルアの語る過去
一方その頃。
ショコレータとアルアは街の散策をしていた。
しかしあまりに金が無いので公園のベンチに座っていた。
「はぁ……和雨さんならすぐにお金を稼いで喫茶店にでも行くのになぁ……。」
「金のない男で悪かったな?」
この二人はそもそも二人で話すことは少ない。
チャットルームでは他のメンバーたちの会話に巻き込まれるし巻き込んでいくから二人で話すことなんてない。
現実世界ではまだ面識もない。
「……なぁ、あの女のどこがそんなにいいんだ?」
ショコレータは正直、財園和雨のことをあまりよく思っていない。
美人だとは思う。
誘惑されてクラッと来るくらいには好意もある。
だがそれを帳消しにするような奇行の数々によって今一歩近寄りがたい状態でもある。
「和雨さんを馬鹿にするなよ?お前が和雨さんのお気に入りじゃなきゃぶっ飛ばしてるんだからな?」
「せめて会話になるように返せよ。馬鹿にはしてねぇ、ただこう……色々常識のタガが外れてるだろ?」
本人の言葉からわかっているだけでも数年間のストーキング、わざわざ運命的な出会いのために自らもストリーマーとなりキャラを演じ、強硬手段に出た際は睡眠薬やら媚薬やら自白剤やらで襲い掛かる。
さらにそれを自身でばらしてからは毎日家に突撃しては飯を作り、シャワーを浴びて帰る。
盗聴器によって相手の情報を余すことなく手に入れる。
さらに最近では全身覆うタイプの謎技術スーツとおしめで完全に俺を管理している。
常識という言葉は彼女を示すのに最も不釣り合いな言葉だと思う。
「でも、ボクはあの人に救われたんだ。」
そう言ったアルアの顔はとてもすがすがしいものだった。
「ボクは生まれながらに足が動かなくてね。」
「……いきなりぶっこんで来るなお前。」
「いいだろ?別に。ボクは調子に乗ってたんだよ。生まれてからずっと甲斐甲斐しく世話を焼かれ続ければそうもなるってものだけどね。“お姫様”気分って奴だった……いいや、事実お姫様だったね。」
「……。」
そのまま話し続けるのか、と思うも何も言わない。
「だから両親の事、親っていうより“召使い”に近い感覚だったよ。でもそれがよくなかったんだろうね。なんでもおねだりして困らせ続けて、最後には両親も離婚してしまったよ。」
「……。」
「でもそれでもボクはわがままなお姫様だった。そしたら親権を持ったお母さんが限界でさ、“そんな体に産んでごめんなさい”って言って襲ってきたんだ。その時初めて母親ってことを認識したよ。あぁ、この人がボクを産んでくれた人なんだってね。」
「いや、流石に盛ったろ?」
「ハハッ……まぁ、頭で理解していたのと心で理解したのは別ってことでね?それで両手もダメになっちゃった。お母さんは精神病院へ、そしてボクは初めて母親に何かしてやりたいと思ったんだ。」
「……。」
「でも両手両足のないボクがどうすればいいと?そこで声をかけてくれたのが和雨さんだ。最新の義手のテスターを任されてね、またボクは手が動くようになった。そして手だけで働ける仕事を探した結果が配信者ってわけ。」
「なるほど、両手が義手の配信者なんてそうはいないだろうしな?」
「まぁ、隠してたけどね?でもそれでボクは初めてお母さんにプレゼントを贈れたんだよ。……誰かに物を贈るなんて初めてだったから少し失敗しちゃったけど。」
「一応聞くけど何贈ったんだ?」
「ほら、よくあるだろ?赤ちゃんサイズの人形、ミルクあげられる奴。」
吹き出しそうになってしまった。
でも絶対笑っちゃいけないやつだと頭が理解している。
笑うな。
「我慢せず笑っていいよ?ボクもちょっと贈ってから後悔したから。」
「……!……。」
「“お前は子育てからやり直せ”って意味なんてないのに泣き出しちゃったからボクも感動されたと思って逃げたからね。恥ずかしくて。」
「お前……流石に煽るつもりはなかったんだよな?」
「ないない!ボクだって贈ってからしばらくして“やべ”ってなったもん!」
「だよなぁ!?流石にそんなことマジでやってたらドン引きだわ!」
ギャハハハと二人で大笑いしていると一人の影が近づいてくる。
それは魔族であり、長い銀髪を一つにまとめた少女だった。
「あの……あなた達はここのお墓に御用ですか?」
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