ep7 二人の推測
デビル・フロント到着の次の日。
シスターとキャンディナは喫茶店に来ていた。
「それで?私をわざわざ選んで二人っきりになって、どういうつもりですか?財園さん?」
シスターは普段、ゲーム内では“キャンディナさん”と呼ぶようにしている。
しかし今はあえて“財園さん”と呼んだ。
「フフフ。私はただ、今の現状を……いいえ、この先の“日本王国”をどうするのか。その相談相手にあなたを選んだだけよ?」
「それは……“超能力者”をどうするのかってことですよね?」
キャンディナはコーヒーを一口飲み、話し始めた。
「このゲームの開発、つまり株式会社ゾシモスは日本国内の配信者へあの椅子型デバイスを配った。その目的はあなたの言う“超能力者”、彼らの言う“魔術師”の量産が目的だった。」
「そうですよね、椅子型の筐体が高すぎるから配信者たちへ配り、独自の配信サイトで配信させてその収益を使って配った筐体の費用を回収、2年後の正式サービス開始に向けてプロモーションを行ってもらうって理由でしたけど……明らかにおかしいですよね?」
「フフフ……そうね。普通に考えて2年も使ってプロモーションを行うなんて常識的にありえないし、筐体が高すぎるなんて理由も配信から得られた収益の一部で賄えるとも思えないもの。アレは嘘……建前と言った方がいいでしょうね。」
シスターは少し考えていた。
キャンディナが奢ってくれたキングサイズのパフェを掬いながら思考して、答えを出す。
「配信者に配信させることが目的だった?このゲームを。」
「フフフ。その通りだと思うわ。だって誰でもいいならそれこそ適当に募集すればいいだけだもの。“配信者”であることは条件の一つだったんでしょうね?」
「他になにか理由があったんでしょうか……?ゲームを配信させることが目的だとして……いいえ、そもそもそれならどうして日本人にしか配らなかったんでしょう?」
「1000人というのも配信者を集めるというには多すぎると思うのよね。まぁ、一つ言えるのはこのゲーム“ミスティカ・アナザーワールド”はゾシモスによる“魔術師”の生産工場のようなものだったと私は思っているわ。」
「じゃあその工場の条件に“日本人”とか“1000人”とかが必要だったんですかね?」
「さて、それじゃあ続きを話すわ。私、RANK5の後にゾシモスへ行ったのだけど開発者……自称ニコラス・フラメルは私に会わなかった。つまり彼にとってRANK5を手駒にするのは目的じゃなかったともいえるわ。」
「なら何のために……RANK5がたくさん生まれないとできない目標があるとか?」
「私が日本王国としてこの国を支配してからゾシモスへ向かった際も会わなかった、しかし電話では私に“条件”を突き付けてきたわ。」
そこで初めて出てきた情報にシスターは驚いた。
「!?イベント後にまた連絡を取れたんですか!?……なんて?」
「フフフ。私が女王になるのを彼は祝福してくれたわ、そして“ゲーム内の映像を他国へも配信する事”を条件にしてきたわ。そしてRANK5の軟禁も許可してきた。」
「……どういうことですか?それじゃあまるで“配信さえしていれば後の事はどうでもいい”みたいじゃないですか?」
キャンディナはコーヒーを飲み干して言った。
「その通りだと思うわ。ゾシモスの目的は“全世界へのゲーム内の映像の配信”。ただそれだけだと思うの。」
「それが何の意味を……いいえ、待ってください。……日本人の配信者1000人に“ミスティカ・アナザーワールド”を配信させることが目的で動いていたゾシモスは配信を続けるだけでいいと今も言っている。」
「フフフ。」
「そう言ってる……ってことですよね?」
「おそらくね。そしてこの予想が正しければ一つの結論が出るわ。」
「それは……?」
「“魔術師”が生まれる様子を世界へ配信する事。それが彼らの目的であり、その結果何かが起こる。」
確かに、そうかもしれない。
今までのゾシモスの行動にはそういう一貫した行動の指針があるように見える。
「一度目のイベントで“神秘の欠片”を配りRANK4・5を生み出し、二度目のイベントで世界でも珍しい多額の賞金を懸けたゲーム大会の様相を見せつけた。」
「それらは全て、RANK5の誕生を、そしてスキルが現実で使えることを全世界に見せるためのものだった?」
席を立つキャンディナは最後に呟いた。
「多分、今度の“変化”は世界規模のものよ。“日本王国”なんてものが霞んでしまうくらいの大きな変化がやってくる。私はそう思ってる。」
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