ep6 裏路地

キャンディナとアルアは街の中を歩きながら、その物価の高さに辟易していた。


「こんなに物価が高いんじゃ休む場所もないわね。」


「和雨さん、別に大丈夫ですよ?ボクだって“マリオネット”を無理さえしなければずっと維持できるので……。」


アルアはその義手義足を“マリオネット”で動かし、まるで自身の手足のように動かして歩いている。


「フフフ。でもどこかで休憩は必要でしょう?ならさっさとお金を稼がないと……ね?」


そう言って二人は人気の少ない路地へと歩みを進める。


「和雨さん……さすがに来て早々問題ばかり起こすのはちょっと……まずいんじゃない?」


「フフフ……わかってないのね?サブクエストは基本的に誰も行かないような場所にあるのよ?つまりこれはちゃんとした探索よ。」


――ザッ!


「おいおい、なんで魔術師がデビル・フロントにいるんだぁ?」


人気のない路地の出入り口を塞ぐように現れた魔族の男はそう言って武器を構えた。


「フフフ……5人ねぇ……たったそれだけの人数でこの私を倒せるとでも?」


「おい!魔術師ごときが調子に乗るなよ!?」


「お前らみたいな劣等種がこんなところに来るからさぁ!」


「和雨さん……やりますか?」


「フフフ……私がやるわ。力の差、そして格の違いというのを教えてあげなくちゃね?」


「「「「「いくぜぇ!“喧嘩術・上”!」」」」」


魔族たちの両足が鈍く光る。


「“インファイト”。そして……“デスタッチ”!」


煙が立ち昇り、一対の腕が生えた彼女を止められるものなどいない。


「ぐぁぁ!なんなのだぁ!?」


「おかしい!?この女おかしい!?」


「何故だ!?たかが魔術師がこうも俺達を!?」


「劣等種風情が!調子に乗るなぁぁぁぁ!“悪魔の抱擁”!」


最初に声をかけた男が何かのスキルを使用する。

その両腕が黒い光に包まれ、巨大な爪となったことでそのスキルの効果が推し量れた。


「受けろぉ!」


両の爪を振りかぶり、キャンディナへと接近する男。

その爪が当たる直前、キャンディナは口を開く。


「“テレポート”。」


「なっ!?消えた!……ぐぁっ!?」


男の背後からキャンディナが4本の腕によるラッシュをかける。

振りむく余裕を与えないラッシュ。

20発を超えたあたりでやっと振り返った男の視界には既に彼女は居ない。


「“テレポート”。」


「また背後か!?」


振り返り、キャンディナを探す男に声が聞こえる。


「上よ。」


「なっ!?」


――ダァン!


空中から叩きつけられたその踵は男の体を地面に叩きつけ、ミシ、と音を立てる。


「殺しはしないわ。有り金全部置いていきなさい。」


「ぐっ……クソが!」


「【独奏淑女】キャンディナ・キャンディベル。……せめて自分を倒した相手の名前ぐらい知りたいでしょう?」


「称号もちかよ……クソ、持ってけ!」


そう言って5人は財布を投げ捨てる。

アルアがそれを拾い集めている間に彼らは逃げ去った。


「フフフ……これで喫茶店で休憩できるわね?」


「和雨さんの奢りですか!?」


「もちろん、私の奢りよ。……称号はやっぱりこの大陸でも珍しいみたいね?」


「サブクエストのボスですら称号って感じじゃないですしね?」


「えぇ、称号は漢字4文字、そしてこれまでのサブクエストボスはEXPERT LOOTですら【罪人】、【怨嗟を纏う歌姫】、【疑心の蛇神】、【金貨探す死霊】……称号っぽいものはなかったもの。」


「NPCに居たって話も聞きませんしね?」


そこに一件のメッセージが届く。


「あら?……ペンツァーは明日以降一緒に行動できないみたいね。」


「えぇ~じゃあ明日はボクとショコレータで回るんですか?……わかりましたけど。」


「えぇ、私はシスターに用事があるからね。」


二人はこの後裏路地を出て喫茶店に入り二人の時間をたっぷり楽しんだそうな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る