ep2 ホバークラフト

ミスティカ・アナザーワールド内、郊外。


「……それで?なんでこのメンバーなわけ?」


そう言って沈黙を破ったのはバンデット・ケーニッヒだった。

周囲にはクラン“マスターピース”の3人、そしてクラン“チョコレート☆キャンディ”の3人が集まっていた。


「フフフ……貴方だけは信用も無いのだから帰ってくれてもかまわないのだけど?」


キャンディナはそう言って5人へ視線を送る。

最後に目を向けたショコレータへ続きを促した。


「あー、バンデットには悪いが……イベント前から話はしてたんだ。一緒に魔族の国“デビル・フロント”へ行こうってな?」


「あぁ?イベント前って言ったってそのイベントがもう2か月……いや3か月まで来たのか、かなり前の話じゃねぇか。」


「フフフ……それは申し訳ない、とは言わないわ。だって忙しかったのだもの。」


バンデットとキャンディナの会話に不満を挙げたのはアルアだった。


「ボクらだって和雨さんと顔を合わせるのは久しぶりなんだよ?むしろ女王様になったんだから一般人の君がここに居ること自体おかしなことだって理解してる?」


「その女王様が俺達を監禁しているのは別にして……か?」


「ダーリン、むしろ一流ホテル以上の待遇なんだからそこに文句を言うのはどうかと思うよ?」


「ダーリンじゃない!……まぁ、納得はしてるんだ、納得はな。」


「まぁ、そういうわけだからさ、クラン合同の遠征みたいなもんだと思ってくれ、な?」


「ウチのリーダーはもうキャンディナの手先みたいになっちまったしな……。」


「それで?マイゴッド、どうやって“デビル・フロント”へ行くんです?」


「あら、シスター。私に聞いてもいいのよ?……フフフ。」


「はぁ、お前ら二人はもうちょい仲良くしろよ?」


「フフフ。まぁ、シスターはあなたと一緒に居られなかったから機嫌が悪いのだもの。これから少しづつ回復するわ。」


「話が終わらん、さっさと行くぞ?どうやっていくんだ?」


バンデットが我慢できずにそう言うと、キャンディナが指を鳴らしてアイテムを取り出したのだった。


「フフフ。水陸両用軽トラック……とでも呼ぼうかしら?」


それはホバークラフトのようなものだった。

黒い車体に車輪は無く、ゴムボートをそのまま巨大化したようなものだった。


「トラック……かぁ?」


「フフフ。まぁ運転は私がするからあなた達は少しおしゃべりでもしていればいいわ。わかるでしょう?」


「あぁ、俺にはシスターの相手をしててくれと。」


「俺はペンツァーの相手をすればいいと……。」


「アルアは私の隣に座るといいわ、体を休めておきなさい。」


「は、はい!ボクは休んでいるだけでいいですか!?」


「いいのよ、ずっと“マリオネット”で手足を固定していたら疲れるでしょう?」


ホバークラフトはゴォンゴォンという音を立てて走り出した。

音が大きく、隣り合った者同士しかまともに会話できそうにない。


「ダーリン、“デビル・フロント”に着いたら一緒に見て回らない?」


「あぁ?まぁ、いいけどよぉ……あいつらはどうなんだ?」


「一応、和雨さんはチョコさんと一緒のつもりだけど……シスターと回るかも?って言ってたわ。どのみち2:2:2:で別れる予定だよ?」


「……ならまぁ、いいか。」


ペンツァーとバンデットはそう言ってなんとなく体を寄せ合う。

あまりにひどい揺れだから、落ちたりバランスを崩さないように。

まぁ。

うん。


「シスター?」


そんな様子に当てられたのか、シスターもショコレータに寄り掛かる。


「……いろいろ、言いたいことはあるんですけど、推しにこう、抱き着くのも私の信条とは少し違うんですけど……。」


「まぁ、話したいことがたくさんあったんだな?それで?」


「……ちょっと揺れがひどくて……。」


「まて!?ゲロか!?ゲロるのか!?」


「いいえ、吐きませんとも、推しの腕の中で吐くわけ……ぐぅ……。」


「待って!?俺に吐くのはやめて!?あ、そうだ!酔い止め!酔い止めくらい誰か持ってるよな!?」


「安心してください、吐きませんとも。」


「こんなところで最近の俺を真似しなくていいって!?」


――ドッドッドッドッ!


ホバークラフトは進んでいく、大陸の端、海を目指して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る