ep7 砂漠に輝く星となる

荒野に砂嵐が吹き荒ぶ。


「“無刀流・砂塵”の効果を拡張したか?すごい範囲だな?」


以前の“無刀流・砂塵”はせいぜい半径5メートル程度の範囲だった。

それが今ではこの荒野の天候そのものを操ったかのような範囲だ。


「確かにこれならどこから仕掛けてくるかもわかんねぇな?」


強力にはなった。

だが、常識的な範囲の再定義だ。

ただただ範囲を広げただけのそれが有効だとは片腹痛い。


「“サイコメトリー”。」


目の前に吹き荒ぶ砂の一粒一粒がお前の意志を教えてくれる。

どこから攻撃が来るのかなぞ、一目見ただけでわかる。


「……?」


しかし支離滅裂なその情報に一瞬思考が止まる。

前後左右上下……どこから攻撃が来るのかわからない。


「“全部”が正解か!“バレットパレット”!」


周囲に弾丸を待機させ攻撃に備える。

“無刀流・砂塵”によって生み出されたこの周囲一帯の砂粒がすべて刃となって迫る。


「“無刀流・砂丘”!」


周囲一帯は荒野だったはずだ。

それすらも砂へと変わっていく。


「逃がさないってことかよ!“ストンプ”」


周囲一帯を“踏み潰す”。

砂粒が地面に叩きつけられ砂嵐の中にぽっかりと穴が開く。


「もう一発!“ストンプ”!」


今度は脚力を強化するための“ストンプ”を発動させ空中へと逃げる。

砂に足を取られ、思ったよりも高度は取れていないが回避には成功している。


「“無刀流・黄砂”!これで終いだ!」


空中にバンデットがいた。

その手に砂でできた大太刀の切っ先を真下に向けた状態で待ち構えていたのだ。


「いい理不尽だなぁ!?えぇ!?」


空中に跳んだ時点でもうここが決着の場であると互いに理解した。

だからこそ、だからこそなのだ!


「その輝く目が憎いんだよ!そいつを俺に寄こせぇ!」


真っ直ぐ切っ先が体を貫通するのが見える。

いや、これは“サイコメトリー”の見せる未来だ、奴の願望だ!

だからまだ負けていない!


――ドスッ……


その切っ先は左の脇腹を貫いて、二人の体にかかる重力と共に落下していく。


「やった!俺の勝ち!……!?」


ショコレータの口元は嘲るように、醜く歪んでバンデットを見ていた。


「やせ我慢スーパーアーマーだ……そんでもって“これ”が本命!」


密着しているからこそ、もうバンデットは逃げられない。

ショコレータへ追従する弾丸は既に準備を終えている。


「炸裂弾の一斉射だ!塵すら残らん破壊の化身だ!お前は耐えられるかなぁ!」


――バァン!


重なった音が巨大な音となり、音波は砂嵐を吹き飛ばしながら拡散していく。

そして二人の体は砂地に着地する。


「馬鹿な……俺が勝ったんじゃねぇのかよぉ!」


巻きあがった砂煙の中にバンデットの叫びが残る。

そうして砂煙が上がったとき、そこに残っていたのはただ一人。


「はは……わずかな差だが……俺の勝ちだな。」


ショコレータの体がポリゴンとなって消滅していく。

相打ちだった。

脇腹の傷だけでは死ななかったとはいえ、着地のダメージを殺すことなどできなかったのだ。

だが直前の一斉射によって一歩先にバンデットを倒せたのだ。

その一瞬の差が勝敗を決した。

だが、その一瞬を求めて皆が皆全力で戦うのだ。


「俺の勝ちだ!」


ポリゴンのクズとなって消えていく中、右拳を振り上げて宣言する。

その右手は確かに輝いていた。

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