ep4 荒野の盗賊ケーニッヒ

街から離れ、草原を抜けたその先の沼地を超え、現在の人気狩場である荒野へとやってきた。


「人気狩場って言ってもこの時間じゃああんまり人も居ない……か。」


人気の少ない時間と言っても戦闘音はまだ聞こえてくる。


――リィン!リィン!


金属の擦れる音が響く。

荒野のモンスター、サソリ型魔物の甲殻は金属鎧のようなものだと聞いている。


「剣士か……。」


双剣か刀か。

戦闘音のする方へ向かうと、そこには見知った人物がいた。


「バンデット……ケーニッヒだったか?」


声をかけられた男は魔物の死体に座り込んでいたのをやめ、立ち上がって相対した。


「お前か……。」


「おいおい、今日も戦う気はねぇのかよ?そんな甘えた男だったか?」


もしかしたらクランの最後のメンバーに選んでもいいかもしれないと思い声をかけた。


「そうだな……もしかしたら勝てるかもしれないよな。」


バンデットはやれやれと言った表情で動いた。

大太刀の先を地面に当て、居合のような構えをとる。

その目は以前のようなギラついた欲望を感じさせない。


「“無刀流・砂塵”……。」


その姿を覆い隠すように砂嵐が巻き起こる。


――ダン!


踏み込む足が地面を叩く。

その音と共にバンデットは飛び込んでくる。


「ダメだな。」


呟いた声は落胆を隠せないものだった。


「なっ!?」


躱す気もない。

バンデットの一撃は、居合のフルチャージでありながらそれにふさわしい威力を持っていなかった。

まるで“居合”が発動していないかのようだった。


「なっ……何故だ?どうして……。」


振り抜いた刀はたった一つの傷すらつけられなかった。


「魔物は倒せているのに……どうして!?」


バンデットは困惑している。

その疑問にショコレータの口は饒舌に語る。


「お前、弱くなったろ。」


「どうして!?俺はずっとレベルを上げ続けた!お前に勝つために!お前を超えるために!」


バンデットは揺れている。

自分のアイデンティティの消失に。

自分の人生の空虚さに。

それを無視するかのようにショコレータは語り続ける。


「RANK5はレベルによって上がるものじゃない。」


「RANK5に至れない限り、お前は弱いままだ。」


「お前の価値を示してみろ。」


「じゃなきゃお前はずっとそのままだぜ?」


大太刀を手で押し返し、かかって来いと言うように手招きする。


「俺は、俺はぁ!」

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