ep24 通い妻
目を開く。
継ぎ目のない金属製の椅子。
“ミスティカ・アナザーワールド”へのログイン用機械。
そこから伸びるヘルメットを外し、立ち上がって体を伸ばす。
「んっ……はぁ。」
体中がバキバキで、マッサージ屋にでもくり出したいところだ。
――ピンポーン!
インターホンの音がする。
この1週間ずっと同じことの繰り返し。
背中へとのしかかるちょっとした重み。
フワリと香る甘い匂い。
「俺がログアウトするのをどうやって探知してるんだ?」
振り返り、彼女の顔を見る。
「フフフ……そりゃあ愛の力ってものでしょう?」
“サイコメトリー”が答えを教えてくれる。
「盗聴器!?どこに!?」
「フフフ。秘密、よく分かったのね?」
「ソファーの下か!」
ガバッとソファーの下へ腕を突っ込み探す。
「一つじゃないのだから気にしないでいいのに……。心を読むスキルでも手に入れたのかしら?」
「あぁ、そういうスキルだけどこれでお前に良いようにされないで済むってものよ!」
「フフフ。なら今私がなんて考えてるか当ててみる?」
そういう財園の顔を見た瞬間、見たことを後悔する羽目になった。
「うっ……きっつ……。」
「フフフ。薄々わかっていたでしょう?」
頭の中でグチャグチャに弄ばれた自分の姿を想像している相手と面と向って話などできるものか。
「寝汗、すごいからシャワー浴びてくるといいわ、その間にご飯の支度を終えておくから。」
そう言われてはシャワーを浴びてくるほかない。
なぜか段々と絆されている気もするが仕方ないのだ。
寝て、起きてゲームへログイン、そして食事をとって寝る。
こんな生活を送っていては手作りの食事が身に染みるのだ。
毎日こんな生活を繰り返すうちに彼女の予定通り“通い妻”みたいな状況になってしまっているのを否めない。
――シャァァァァァ……
大体、こんな生活をどうすれば脱却できるというのか。
この生活を捨てるということはわざわざ買い物に行って、帰ってきて料理を作るということだ。
インドアな自分に楽を覚えさせ、あまつさえ自分で作るよりも数段……いや数十段上の料理を与えられればこうもなる。
洗い物を片付けるのは最後の砦として守っているが、それですら家族生活の様でどうにもならない。
――キュ。
バスタオルで体を拭いて、着替えて食事を一緒にとる。
もはやこの食事風景ですら配信されているのを気にも留めなくなってしまった。
もう逃げられないのかもしれない。
でも俺は。
「俺はまだ落ちてない!」
「“まだ”っていうならこのままいけば落ちるのね?フフフ。」
今日のトレンドに“まだ落ちてない”がのってさらに精神的に追い詰められるのだがそれをまだ俺は知らない。
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