ep23 神の心臓
「“神の心臓”。」
ミストールはそう言った。
まるで自分の考えが信じられないかのように、絞り出すような声だった。
「神の……心臓?」
「そうだ、我ら貴族家の家長が全て一堂に会し、年に一度祀られたそれを前に酒を飲むことになっているものだ。」
「その祀られた御神体みたいなものが?」
「神の心臓と呼ばれる赤い石だ。ちょうどこの石を赤くしたものに見える。そして神の心臓は今まで私自身ただの道具だと思っていたのだよ。」
ミストールの想像が“サイコメトリー”によって伝わってくる。
「それは結界を張るための道具であって、赤い石みたいな見た目をもじって心臓と呼んでいただけだと。」
ミストールが言葉の先を話す。
「そうだ。だがこの白い石を落としたあの幽霊は魔物だった。いや、魔物となった人間だった。だとしたら神の心臓は?誰の心臓だ?」
部屋の中に沈黙が流れる。
「……神。」
それを破ったのはショコレータ。
そしてその想像が意味することは一つ。
「何者かが神を殺してその心臓をこの街へ持ち込んだ。」
そしてその言葉が意味することはただ一つ。
「……神は存在した?」
「おとぎ話だ。これ以上妄想を話しても何の意味も無い。これで帰りたまえ。」
ミストールは退室を促してくる。
だが、これだけは聞いておきたかった。
「あんたは“悪魔”と“神”が居ると思うか?」
その質問にミストールは一言。
「居たのかもしれない、だが今は居ない。そう答えさせてもらおう。」
「だったら俺たちが話した内容は妄想さ、今居ないものの話をする必要なんてどこにもないんだからな。」
アンブロシアへと帰り、ログアウトする。
ここ最近の悩みの種を思うとこの瞬間が一番気が重い。
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