ep22 国

翌朝、ミストールが用意した300万Cを直接渡したいというので屋敷へと再びやってきていた。


「お待ちしておりました。旦那様がお待ちです。」


使用人の男に案内されたのは資料室だった。

その応接セットに座るミストールが着席を促してきたので座る。

少し悩んだ様子のミストールは口を開く。


「……まぁ、これが300万Cだ。今回の件、助かった。」


歯切れの悪い言葉。

何かを話すかどうか悩んでいる様子。

それを話すまで待ってみた。


「……これを話すべきか、どうか迷ったんだがな。お前は悪魔の住む島デビル・フロント、神と天使の住む島ゴッド・パレス、その二つの島について調べていたようだからな。」


「貴族にはおとぎ話として伝わっているんだろ?事実この部屋の資料はほぼすべてそういうものだったしな。」


ミストールは地図に視線をずらした。


「私とておとぎ話であると認めているさ。だが、ホーバークラフト家に代々、口伝として伝わっている話がある。」


「口伝?本じゃなくてか?」


機密室には購入したものやそれにまつわるエピソードを文書として残していた。そんな家で口伝でしか残さない話?


「この街の以前の名が“ラスト・リゾート”だというのは聞いただろう?だがそれ以前にも名があったとしたらどう思う?」


「その名は……?」


「要塞国家キャスリック。それがこの街の名だ。」


その名前には、ある一つの事実が隠されている。

それにすぐに気づく。


「まて、要塞“国家”!?国だったっていうのかよ!?この街が!?」


立ち上がり、叫んでしまう。


「そうだ。この大陸にはそもそもいくつかの国家が存在していた。でなければ要塞“国家”などと呼ぶことは無い。そしてそうでなければおかしなこともある。」


ミストールはさらに続けた。

自分の推測交じりの話を目の前の男へ伝えるために。


「“マンハンターギルド”。なぜあの時代には街の外に人間が住んでいた?魔物の蔓延る大陸に人間が住めるはずもないのにどうして?それがもし、過去の国家の名残だったとしたらどうだ?」


「この大陸には国家があった。そしてそれが存在できたのは……魔物が居なかった?」


街の外で生きられない理由はそれしかない。

ならば逆説的に街の外に人間が住んでいた=魔物が存在しなかったということになる。


「そうなるだろう。だがそうなるとおかしなことがある。“魔物はどこからやってきた?”いや、“魔物はどうやって発生した”?その答えもまた、お前のおかげで見つかったかもしれん。」


そう言ってミストールは机の上に“ある物”を置く。


「……それは……“神秘の欠片”?」


前回のイベントで配られたもの。

その石はRANK4へ至るためのキーアイテムだとばかり思っていたが、そもそもイベント概要に書かれた一文を思い出す。


入賞商品は“神秘の欠片”!

ミスティカ・アナザーワールドの世界ではこれを求めて何度も争いが起きた曰くつきの強化アイテムです!


「“神秘の欠片”?そういう名前で呼ばれているのか?」


「あ、あぁ。まさかここで見つかるとは思ってなかったが……。」


「あの幽霊が残したものだ。お前にくれてやる。だが、私はこれとよく似たものを知っている。」


そしてミストールは語った。

“神秘の欠片”とよく似たものの名を。

それをどこで見たのかを。

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