ep17 戯曲~指折り数えるレクイエム~

――少女が倒れている。


大量の死体の山の上に、そのブサイクな少女は倒れている。

ゴミ山に眠るその少女はディーという名前だった。


「ここは……。」


少女を見下ろす影があった。

天才などともてはやされたその男には、目の前の少女が他人とは思えなかった。

才能を持ってしまったせいで不幸になった少女。

自分に才能がなければ、もし自分の人生がほんの少しずれていれば。

自分もこんな悲劇と共に死んでいたのだろうか。


「いいや、そんなわけないだろう。俺は俺だ。この子じゃない。」


才能がなければどうだろう。

きっと、平凡な自分を憎む気持ちは持っていただろう。

そして才能ある人を羨み、手を伸ばし、そしてそれに手が届かなくて絶望し。

平凡な人生を受け入れて進むのだろう。

もしも才能が世界に理解されなかったらどうだろう。

それでもきっと俺はこの才能を誇りに思っただろう。

小さなコミュニティで王を気取り、神にでもなったかのように覇を唱えるのだ。


「だから、俺はこんなものにならない。俺はお前とは違う。」


そう呟いた途端、戯曲は進む。


――ドン!


酷い衝撃が舞台を揺らす。

少女に折り重なるように、一人の男が降ってくる。


――その名はメロゥ


折り重なる二人はまるで恋人のように手が重なり、唇が触れ合いそうな姿をしていた。


――あぁ、メロゥ、どうしてあなたは落ちてきたの


それに答えたのはメロゥだった。


「ディー!?お前……死んだんじゃないのか!?どこにいる!?」


目の前の死体と、ディーの声が彼を惑わせる。


――あなたが幸せだったらそれでよかったのに


「お前……まだ俺を縛るつもりか!ふざけるな、お前のせいで俺は愛する人を失ったんだ!どうやって生きていけばいい!?お前に責任がとれるのか!?」


――あなたが幸せなら、私はどうなってもよかったのに


「嘘を吐くな!俺の指を喰ったくせに!俺に付きまとうな、俺を自由にしろ!」


――私はあなたを愛していた


――いいえ私はあなたしか頼れなかった


「あぁ、そうだな!お前はいつもいつも俺の後をついて回って……俺はもっとすごい美人と幼馴染だったら良かったと思ったよ!」


――どうして私を愛さなかったの


――どうして私は死んでしまうの


――どうして私は一人なの


「お前が悪いんだ!お前が歌なんて歌うから!だから貴族に売られたんだ!お前のせいだ、お前のせいだお前のせいだ!」


一際大きな声が響く。


――私は悪くない!


――私は悪くない!


――私は悪くない!悪くない!悪くない!


――お前さえいなければ!


――返せ!


――私の人生を返せ!


「返せ!」


その声は、メロゥから発せられていた。

その声は、ディーのものだった。

メロゥはこの日死んだのだ。


「ハハ……ハハハハハハ!」


「やった、やったわ。私は生き返った、生き返った!」


メロゥの体で踊る。

それはそれは美しい踊りだった。

もう体の弱い少女はいない。

もう、歌しか取り柄のない少女はいない。

死体の山に火をつけて、その周りを踊る少女は歌い出す。


――憐れな少女は歌い出す


――愛する人すら夢の中


――叶わぬ願いに恋い焦がれ


――今日も元気に歌い出す


――あざとい女を見下して


――馬鹿な男はゴミにして


――最後にあの人を想い歌う


――あなたは私を知っていた


――あなたは私を理解した


――だから私はあなたを想う


――あなたは私のものだから


――あなたは私が殺してあげる


――これはあなたのレクイエム


――これは私のレクイエム


――夢だけ見ていた少女が歌う


――これは私たちのウェディングソング


――この声はきっといつまでも響く


――この声はきっとあなたに届く


やがて炎は広がっていく。

炎の中に、ずっと踊り続ける影だけを残して。

やがて、炎が治まった頃、唐突に視界が広がっていく。

そこはミストールの寝室だった。


「……。」


そして、目の前の床には一本の赤いナイフが残されていた。


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