ep16 戯曲~指折り数える怨嗟の歌姫~

次に目の前に繰り広げられたのは、最後の指を飲み込んだ少女の姿だった。


「これで終わりか。長かったが何の意味があったんだ?」


ショコレータは最後の話を思い出す。


【7月24日】

とうとう10本目を切り落としてしまった。

するとどうだ、歌姫が自らの喉を切り裂いてしまったのだ。

これではもう使い物にならない。

ブサイクな女を残しておいても仕方がないので下へ捨てた。


【7月25日】

男の方を他の奴隷の褒美として預けていたことを忘れていた。

これも下へ捨てておいた。

残しておいてもよかったかもしれないが記録に残す時に面倒くさいのでまとめて処分しておいた。


「あとはスラムに向かって落とされて終わりだよな?」


目の前で、ディーはその喉を自らの指で切り裂いた。

そこから流れる血は床を赤く塗りつぶし、そして。


「やはり死を選ぶか、歌姫。」


黄色い男はひどく落胆した声を零した。


「お前は歌姫である自分が嫌いだったのだろう?その歌が、お前を現実という地獄へと縫いとめたのだから。」


ショコレータも、同じように気づく。

歌姫にとって本当に“歌”は自分の持った才能だったのか、神が与えた誇りと呼べるだけのものだったのか。

違うのだ。

歌姫ディーはその歌によってマンハンターに見つかってしまった。

歌うことが彼女の地獄を、奴隷としての人生を歩ませた。

歌姫ディーは同じ村の少年メロゥを巻き込んだことを後悔していた。

自分が歌わなければメロゥは幸せでいられたのだと。

だからメロゥが自分の歌を歌って売られていくのを黙ってみていた。

メロゥが自分を求めてくれたことが嬉しかった、だから一緒に売れるためにも歌を歌った。

メロゥがおまけになってしまったが、二人で貴族家に買われてよかったのだろう。

しかしメロゥとはなかなか会えなくなってしまった。

メロゥに村から少し離れて歌ったあの頃とは違う。

自分はメロゥに、いつも歌を聞いてくれる彼に聞いてほしかったのだ。

だからこそ、歌えなくなってしまった。

メロゥが居なければ歌えなくなってしまった。

そうしたら今度はメロゥが美女に奪われてしまった。

自分にはもう歌しかない。

だから歌う。

でももうメロゥはいない。

また歌えなくなってしまった。

歌はもう、憎いものになってしまっていた。

メロゥの指を咥えながら、喰らいながら彼を求める。

その度に彼の好意が消えていくようで、辛かった。

そうして。


「全ての指を喰らった時点でメロゥはディーを愛せなくなってしまったんだ。」


メロゥを失ったディーはもう歌いたくなくなってしまった。

だから喉を掻っ切った。


「だとすれば、この先の展開は……。」


予想できる。

ディーの人生はこれで終わった。

あとはメロゥが落とされる番だ。

そしてその理由は“記録に残す時に面倒くさいのでまとめて処分”なんてものじゃない。


「このジジイはディーを慮ったんだ。たった一人愛した男を奪われて……いいや、女として見てもらえなかったという事実に勝手に絶望したディーをかわいそうだと思っただけだったんだ。」


黄色い男は確実に悪人だ。

性根が腐っている。

だが、それはそれ。

確実にディーのことは“お気に入り”だったのだ。


【スキルを獲得しました】


【Aスキルが一杯になっています】


【一部スキルが統合されました】


【スキルを獲得しました】


そのアナウンスが流れるとともに、最後のシーンへと意識が沈んでいった。

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