ep13 歌姫

また意識が飛んだ。

今度は檻のようなものに入れられている。

少女は与えられたゲロのような流動食を食べられず、少年だけが食べていた。


「すぐ、こんなところ抜け出して見せるから、頑張れディー。大丈夫、僕が……俺が付いてる。」


少年は自分のことを俺と呼ぶようになった。

すこしでも強い姿を見せて勇気づけたいのだろう。

そんな中、腹の出た巨漢がノッシノッシと檻の前までやってきた。


「おい、そこの。何か特技はあるか?売れればこんなところすぐに出してやるんだから嘘を吐くなよ?」


「そ、それは……どんな?」


少年の質問にも男はきちんと答えていた。


「踊り、計算、お前たちの歳で夜の世話というのもいいだろう。」


「歌でも……歌でもいいですか?」


「ほぅ、歌とは難しいものを選ぶ小僧だ、よし、唄ってみろ!」


少年は必死に歌った。

震える手足を懸命に伸ばして、綺麗に鳴いた。

毎日のように聞かされてきた歌を、少女の唄を。

その歌は確かに芸術品として十分な価値を持っていた。


「素晴らしいな、まさかこんなにいい奴隷が捕まるとは……早速買い手を探してやろう。」


「あ、ま、待ってください!ディーも、ディーも一緒にしてください!」


頭を下げ、男に頼み込む少年は少女を守る男であろうと誇りをもって頭を下げたのだった。

その言葉を男は一蹴する。


「馬鹿か!そいつはもう使い物にならんゴミだ!買われたところで2、3日の間に死ぬだろう!そもそもそんなブサイクなものを付けて売るなんて俺の看板に傷をつけるつもりか!」


「どうしても、どうしてもお願いします!俺はどうなってもいいから、ディーは、ディーだけでも無事に……。」


「奴隷に無事もひったくれもあるか!そんなガキ、100Cの価値もない!お前みたいな子供を買う馬鹿がどこにいる!そんなそこそこでしかない歌で!」


その言葉が引き金となった。

これまで二人のやり取りを、ぼぉっと見つめていた少女が起き上がったのだった。


「ディー!?やめろ!」


――あなたの声を探していた


――あなたの思いが聞こえていた


――あなたの事を知っているつもりで知らなかった


「これは……少女の声じゃない!?」


ショコレータは慌てた。

ここまで、ずっと幽霊の過去を見せられるのだと思っていただけに、現代の幽霊の声を聞くなんて、と驚いた。


「ここはやっぱりあの幽霊の見せた幻か……一体……。」


何を見せようとしているのか。

何がしたいのか。


「これは……素晴らしぃ!歌姫だ……この少女は歌姫だ!これで見た目がこれでなければ億も夢ではなかったのだが……まぁいい。」


男の妙に喜んだ声がずっと耳に残り続けた。

妙に体が熱い。

何かを見落としているような。

何かに気づかなきゃいけないような。

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