ep10 製品劣化記録

部屋中に置かれた本棚。

部屋中に所狭しと置かれた目録は初代ホーバークラフト家家長の購入したものからずっと記録されていたものだから、目的の物探すことには苦労した。

だが、きちんと整理されていたおかげで本の総量に対して驚くほど速く見つけられたと言えるだろう。


「このあたりが奴隷の記録だな……。」


――ペラ。


――ペラペラ。


――ペラペラペラ。


目的の物を探す。

スクラップブックのように購入したもののメモをノートに貼ったような台帳。

それを丁寧にめくって確認していく。


「奴隷には名前がない……だから“ジョン・ドゥ”だったんだ。」


目録には“女”や“男1、女1”などと書かれている。

入手経緯はほとんどが“奴隷商人ギルド”だ。


「きっと手がかりがあるはずなんだ……“歌姫”……。」


“歌姫”という単語があった。

これだと思った。

クエスト名の歌姫とはこの歌姫という奴隷の事だと思った。


【歌姫、男1】

購入先:奴隷商人ギルド

値段:2000万C

備考:歌姫とセットにされていた男は恋人らしい。二人同時でなければ購入できないということでまとめて購入。


「これだ。……だが男の末路まではわからないか……。」


――ペラリ。


下の1枚に書かれた内容に正気を失いそうになった。


【6月24日】

歌姫が喉を痛めたらしく、もう歌えないと言い出した。

もう使い物にならないならと、男の方を目の前で他の女奴隷に抱かせてやると泣き出すので“声なら出るではないか”と咎めると観念したように歌い出した。

以降、男の方を痛めつければちゃんと動くことが分かったので安心した。


【7月12日】

歌姫がもう歌えないと言い出した。

またか、と男の方をまた他の奴隷に抱かせてやればまた歌い出した。

やる気のない奴隷にやる気を出させるいい方法はないだろうか。


【7月14日】

傷をつければ寿命が縮んでしまうからやりたくなかったのだが、今度からは男の方の指を一本ずつ切り落としていくことにした。

今から歌姫を失うことを考えると気が重くなる。


【7月24日】

とうとう10本目を切り落としてしまった。

するとどうだ、歌姫が自らの喉を切り裂いてしまったのだ。

これではもう使い物にならない。

ブサイクな女を残しておいても仕方がないので下へ捨てた。


【7月25日】

男の方を他の奴隷の褒美として預けていたことを忘れていた。

これも下へ捨てておいた。

残しておいてもよかったかもしれないが記録に残す時に面倒くさいのでまとめて処分しておいた。


そのメモには“製品劣化記録”と書かれており、それはこのメモを書いた人物が奴隷のことをその程度にしか考えていなかったことをありありと感じさせた。


「……おぇ。」


気持ちが悪い。

ミスティカ・アナザーワールドのサブクエストは全部がこんな胸糞悪いものなのだろうか。

ゴキブリだらけの下水道と比べても全体で見ればタメを張れる気持ち悪さだ。


「だが、これで正体はつかめた。この男が幽霊だ。そして“指折り数える”って言うのはあのナイフのことで間違いない。奴はナイフを自分の切り落とされた指に見立てて置いていったんだ。そしてそれが10本目になると同時に復讐を果たすつもりだ。」


探索はもう充分。

あとは戦ってあいつを倒すだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る