ep9 怨嗟の先を探して
「……それで、8本目のナイフを置いていった犯人が黒い肌で男の幽霊だったと?」
朝、ミストールが起きたので昨夜の戦闘について話した。
「あと、これは俺が感じたことだが、奴は確実にアンタに恨みを持ってたぞ。」
「そんなことを言われても……本当に覚えがないんだ。」
とにかく、まずはわかっている情報をまとめていこう。
・ナイフを置いていったのは黒い男の幽霊だった。
・男はミストールに恨み?怒り?のような感情を持っている。
・動きは素人、攻撃の瞬間質量を持って攻撃してくる。
・攻撃手段は適当なパンチ。
・名前は【ジョン・ドゥ】。名無しの権兵衛みたいな意味。
・【指折り数える怨嗟の歌姫】歌姫?
・【指折り数えるレクイエム】レクイエム?鎮魂歌?誰の?
「……少し確認したいことがあるんだけどさ、アンタって2代前の家長とそっくりなんだよな?あの絵画があんたに寄せて書かれてるとかじゃなく。」
「あ、あぁ。祖父を知る人にもよく似ていると言われるよ。それがどうした?」
その答えに対して、一つだけ気づいたことを話した。
「もしもあの幽霊が“アンタの祖父”と勘違いしていたらどうだ?もしもあの幽霊が生まれたのがここ最近だったとしたら?」
「それは……祖父を恨んでいた人物が幽霊となったことで復讐に来て、私を祖父と勘違いした、ということかな?」
首を縦に振って肯定する。
「……そうだな……ありうるかもしれない。だが祖父を恨む理由なんて私にはわからないぞ?」
その理由こそ、クエストタイトルなのだろうか。
【指折り数える怨嗟の歌姫】。
男なのに歌姫?どうして?
指折り数える……10日目がタイムリミット?
「なぁ、奴隷商人ギルドっていうのはいつまで活動してたんだ?いや、傭兵ギルドに変わったのはいつだ?」
「何をそんなことを……ちょうど100年前ほどかな?私が産まれた時には変わってしまっていたが祖父は奴隷の存在をちゃんと知っていたよ。」
「つまり、祖父の代、この家に奴隷はいたのか?」
その質問にミストールは驚愕の顔を浮かべ、叫んだ。
「まさか奴隷が私を狙って来た幽霊だとでもいうのか!我が家の家長が恨まれるようなことを奴隷にしたと言いたいのか!?」
「アンタも俺も知らない時のこと、可能性はあるさ。奴隷について俺は何も知らないんだ、こういう想像したっていいだろ?」
奴隷の扱いなんて本人ならともかく、使っている側にはわからない。
どんなに立派なご先祖様でも奴隷にまでそういう態度を取っていたとは限らない。
「だったら構わん!うちの機密をまとめた物置へ行くぞ!そこにきっと答えがあるはずだ!」
ズンズンと歩き出したミストールに慌ててついていく。
「機密って!?」
「ウチにある物の目録や入手経緯を記した台帳がある!それを見れば先々代の奴隷について調べられるはずだ!」
「そんなものさっさと確認すればよかっただろ!?枕元にナイフなんて恨みしかありえないんだから!」
ズンズンと歩いていくミストールと共にやってきた地下室への入り口、鉄の扉を開けながらミストールは言った。
「恨みなんてものは何も生まないものだろう。そんなもののためにこんなことをする奴なんて私には想像もできなかったのだよ。」
その言葉は、これまで感じなかったミストールという人物の、いや、貴族の価値観を示しているような気がした。
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