ep7 資料室
資料室ということで、図書館のような場所を想像していたが、実際に入ってみると執務室のような印象を受けた。
壁一面に本が並べられてはいるものの、それが占める割合は部屋全体の2割もない。
机が一つと来客用の応接セットのせいでどちらかといえば“応接間に置かれた本棚”という印象の方が強いくらいだ。
「これは……もしかしてこの大陸の地図か?」
壁の一面に張られていた大きな地図。
大陸の中央には岩山が三つ並んでおり、小さく“ラスト・リゾート”と書かれている。
左上と右上にはそれぞれ区切られた別の島の地図が描かれており、それぞれに“デビル・フロント”、“ゴッド・パレス”と書かれている。
「あぁ……中央の大陸は確かにこの大陸の地図だ。だがこの地図は必ずしも事実を描いているわけではない。」
「うん?同じ紙に書かれてるんだから一部が事実じゃないってのはどういうことだよ?」
ミストールは苦い顔で話し始めた。
「我がホーバークラフト家は7代前、一度断絶の危機にあった。その原因こそその地図だったのだ。」
「断絶とは穏やかじゃないな?地図が原因でそんなことになるのかよ?」
「貴族の間での常識、それとこの地図は違うのだよ。ここに描かれている二つの大陸は……いや島といった方がいいか。島は存在しないはずなのだ。」
「存在しない?」
「悪魔の住む島デビル・フロント、神と天使の住む島ゴッド・パレス。それらの島は存在しないと言われているのだ。おとぎ話の中にしか存在しないとな。」
「確かにこの街の中に居たら島の存在なんてわからねぇけどよ、あるかもしれねぇじゃねぇか?」
ミストールはため息をついて吐き捨てるように言った。
「それが“海の上を泳ぐ島”だったり“空に浮かぶ島”だと言われてもか?そしてそこには悪魔や神、天使が住むというのだよ。そんな世迷言に憧れたのが7代前のホーバークラフト家家長だった。」
「あん?」
「そいつはこの地図一枚を証拠に“悪魔の島も神の島もある”といって騒いだのだ。魔物こそ悪魔の子供であり、神の子である天使もまた存在する、そう言って魔物をけしかけて他家に迷惑をかけ続け、処分されそうだと判断したのかホーバークラフト家の金を奪って消えたのだ。……結局、帰ってくることもなく、野垂れ死んだとは思うものの次の代をどの子供にするかで揉めに揉め、決闘によって生き残った者がホーバークラフト家を継ぐという結果となった。」
その話を聞いて前のサブクエストのことを思い出していた。
あの日記の筆者はホーバークラフト家の7代前の家長ではないか。
「もしかしてその頃に下水道を拡張したりしなかったか?」
「知らんな、流石に“当時何があった頃か”など覚えているものでもない。私にわかるのはせいぜい私の顔が祖父にそっくりだと言うくらいのものだよ。」
ミストールが飾られている絵を示す。
確かに泣きぼくろの位置も、皴の入り方もそっくりだ。
黄色いスーツに人に好かれそうな笑顔、若々しく、50代だという注釈が付いているにもかかわらず、20代でも通用しそうな見た目をしていた。
「これ、本当に50代の姿なのか?あんたと変わらないように見えるんだけど?」
「失礼な、私はもう46だよ。今の私にもそっくりなんだから祖父もまた50代でもおかしくないだろう。」
「……なぁ、そんなにそっくりならさ、祖父の方を恨んでいるんじゃないか?」
「それこそ有り得ないだろう、祖父が死んでからもうずいぶん経つし、祖父を恨んでいたならそいつ自身がわかるだろう?私が祖父でないことぐらい。」
「まぁ、そうか。」
「それに恨んでいるならもう私を殺しているはずだろう?」
ミストールの言葉は、常識的に考えてその通りだと思った。
「……なぁ、ちょっとその悪魔の島と神の島っていうのが出てくるおとぎ話みたいなのを読ませてくれねぇか?」
「関係ないと思うが……気になるならいいだろう。その代わりちゃんと仕事はしてくれよ?」
「あぁ、今日は徹夜でアンタの部屋を張りこませてもらうよ。」
本棚から数冊取り出された本を手に取り、読み進めながら夜が来るのを待った。
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