ep6 ミストール・ホーバークラフト

メダルを見せてカーゴに乗るとゴゥンゴゥンと音を立ててカーゴが引き上げられていく。

やがて到達したのは岩山の頂上、貴族街。


「……すっご。」


岩壁にできた街とつられた橋でできた商業区、それと山の頂上に作られたこの街はあまりにも違っていた。

それこそ現代の街にも引けを取らない文化レベルを感じる街並み。

石畳で舗装された道。

電灯のような謎の明かりがちゃんと道に設置されており、各家、400坪はありそうな屋敷ばかりだった。


「さて……黄色い屋根のホーバークラフト家にまずは行かないとな……。」


そうして周囲をきょろきょろと探しているとなかなかに個性的な人間ばかりだと思う。

全身1色のコーディネイトは目がちかちかする。

そんな街を歩き続ける事30分、ようやく黄色い屋根の家に辿りついたのだった。


「山の上の街と壁沿いの街、そしてスラム。なんだかんだ言って街の中は大体見たんだよな。」


なんとなく、そう呟いてしまう。

スラムの生活は苦しそうだったが、その分連帯感を感じさせるものだった。

商業区の生活は己の力、というより金の力が物を言う世界だった。

そしてこの貴族の街は。


「なんというか“伝統と規則”の街って感じだな。」


一番栄えているようで、一番文化的であるようで、ここにあるものはルールから逸脱するようなものじゃない。

家の屋根、服装、道を歩く向きやら何やら……ルールでガチガチに縛られているように感じた。


「でもまぁ、まずはこのクエストからだ。ごめんくださーい!」


叫んでみれば使用人のような男がやってきて門を開けた。

服装こそ上等だが、肌艶から見るにそこまでいい生活でもなさそうだ。


「傭兵ギルドから依頼を回された狩人ギルド所属の狩人、ショコレータ・ショコランティエだ。」


「えぇ、そうですか。旦那様がお待ちですのでどうぞこちらに。」


屋敷の中を案内されてやがて一つの部屋へと到着する。

一番奥まった場所、屋敷で一番安全な場所、そう寝室だった。


「こんなところへ呼びつけて悪かったね。わざわざ狩人ギルドからきたんだろう?」


そう声をかけてきたのは仕立ての良い黄色のスーツに身を包んだ男だった。

その一色で彩られた男は、これまでの情報だけでその正体が読める。


「ミストール・ホーバークラフトさんですね?私は狩人ギルド所属の狩人、ショコレータ・ショコランティエです。」


「あまりかしこまらなくていい、英雄にかしこまれては私の立つ瀬がない。業務に支障が出ても困るのでね、普段通りで構わないよ。」


「では僭越ながら……今回の依頼は護衛と犯人の捕縛ってことだよな?件のナイフっていうのを見せてもらいたい。」


ミストールはフィ、と首で机の上を指す。

そこには数本のナイフがあった。


「こいつか……確かに刃に赤い色を付けてあるな。それに柄の部分がおかしい、砕けたような跡がある。」


7本のナイフが並べられている中の一つを手に取り確認する。


「それが毎朝この部屋の中央、袖机の上に置かれているんだ。どうだい?何かわからないか?」


「……ナイフはかなりの安物だな。刃も悪い意味で薄いし、柄に使ってる木も穴だらけでスポンジみたいだ。少なくともアンタを殺すにしてもこれじゃあ渾身の力を籠めないと厳しいぜ?」


柄の部分を両手で持って軽く力を籠めるとボッ!という音とともに砕けてしまう。


「いや、これもしかして柄の部分は何かの拍子に砕けてるのか?袖机に刺さってるわけじゃないんだよな?」


「あ、あぁ。それはないぞ。いつもそこにポンと置かれているだけだ、手紙の類も傷跡も別にないから間違いない。」


思考に耽る。

安物のナイフ。

砕けた柄。

赤い印。


「わからんな、アンタに恨まれる謂れもないならアンタの親や爺さんへの恨みかもな?そういうのを知れる部屋はないか?」


「そうだな、では資料室へ向かうとしよう。あそこには他の家にないような資料もたっぷりある。調べ物にはちょうどいいだろう。」


そう言ってミストールと共に寝室を後にするのだった。

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