ep4 貴族という生き物
樽のような女主人は話し始めた。
「まず、この街は今でこそ“街”って呼ばれているが昔はちゃんと名前があったんだ。この話はこの街が“ラスト・リゾート”と呼ばれていたころの話さね。」
最後の楽園、その名前にも意味があるのだろうか。
「事実この街は唯一、人間が栄えた街だったんだ。山に囲まれていて、門が街の出入りを管理している以上魔物の被害もなかったからね。」
「魔物がいた以上、安全な場所は栄えるよな。理解できるぜ?」
「だが人間は大陸中に存在していたんだ。そんな“野良人間”を捕まえてきて、奴隷にして働かせていたのが“マンハンターギルド”、魔物の蔓延る外で人間を捕まえて連れてくるある種の英雄だった。」
「マンハンターが連れてくるのは奴隷なんだろ?なんで英雄なんだ?」
「そりゃあこの街の外から資源を持ってくるのが狩人、マンハンターだからさ。奴隷はもちろん、魔物素材や希少な植物なんかを持ってくるのは英雄的だったって話さね。」
「あぁ、なるほど?今は“狩人ギルド”だがそれは“奴隷狩り”するほど外に生存者がいなくなったからなんだな?」
「いい勘してるじゃないか。その通り、狩人ギルドは主力商品の奴隷を捕れなくなったからマンハンターじゃなくハンターギルドになったんだ。そして奴隷が居なくなって困った奴らもいた。」
「奴隷商人ギルドだな?今は傭兵ギルドって言っているあたり所謂職業斡旋所みたいなものだったんだろ?」
「そうだね、ただし奴隷には“どこ”で働くかを決める権利がなかった。」
「働けるだけよくないか?マンハンターに連れ込まれてスラム暮らしよりはましだろ?」
「その頃スラムなんてなかったよ。そして奴隷の行き先もほとんど決まっていた。この街の一番高い所に住む奴ら、“貴族”だよ。」
貴族。“あば与”で聞いたことを思い出す。
門の管理と結界を作り出す道具の持ち主……あとは魔物を倒せる力を持っているんだったか。
「貴族は奴隷たちにいろんなことを命令していたんだ。趣味の悪いことに、拷問で命を落とすようなのもいたって話だ。そんな奴らが“壊れた”奴隷を山の下に突き落としたのがスラムの始まりさ。最初の頃は落下した瞬間死ねたんだが、段々その肉の山のおかげで死なずに生き残るやつが生まれていった。そいつらが只々生き残るために努力した結果があのスラムってわけさ。」
「えぇ……なんかこの世の終わりみたいな民度してんな?」
「そうして起きたのが“スラム戦争”……いいや、戦争なんて起きなかったんだがね。」
その単語に“あば与”で聞いた話を思い出した。
「それってもしかして扉を開けっぱなしにしたっていう?」
「なんだ、知ってるんじゃないか。そのせいでほとんどの人間が貴族に従ってスラムの人間のほぼすべてを皆殺しにしたってオチも知ってるんだろ?」
「貴族が殺したんじゃないのか?」
「そんなことするわけないだろう?スラムの人間は貴族に焚きつけられたマンハンター達に狩られたんだよ、門の開閉をちらつかせられてね。」
どうやら“あば与”の話も少し事実とは違っていたらしい、いや、貴族が糸を引いていたんだからいいんだろうが。
「その戦争後、奴隷商人ギルドは傭兵ギルドと変えた。貴族の使用人として十分な教育をこなして送り込むって触れ込みでスラムから人を回収しているあいつらがまともな仕事しているとは思えない、大方スラムで拾って貴族に“壊された”奴はあいつらが処分してるんじゃないのかい?」
その言葉は、確かに“傭兵ギルド”というものの実体を捕らえているように感じた。
樽のような女主人の言葉にアンブロシアの主人は肯定も否定もしなかった。
「はぁ、もういいかい?そんな昔の話を今更持ち出して来て……今回の依頼にそんな歴史は関係ないんだから。アンタの想像が事実でも事実じゃなくてもどうでもいい。」
「まぁ、報酬次第でどのみち受けるつもりだしな?」
その答えに満足したのか主人は一枚の手紙を差し出してきた。
「依頼は最短7日、最長1月とみていい。報酬は300万C、個々の酒場で1年は自由に飲み食いできるだけの金額だ。手紙の封を開けるなら依頼の詳しい内容を知ることができるが、受けないならさっさとその手紙を返しな。」
「そんな依頼、受けないほうがいいさ!貴族がらみの依頼でいい事なんてないんだから!」
俺はその手紙を。
――ビッ!
その手紙の封を切った。
【SUB STORY QUEST】
【指折り数える怨嗟の歌姫】
【このクエスト中は自動配信がオフになります。】
【クリア時公式サイトにて攻略風景が配信されます。】
【また、サーバー内でクリア者が出た場合、以降このクエストは消滅します。】
【SUB STORY QUEST START】
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