ep20 選民崇拝

彼女に叩き込まれた炸裂弾が次々に破裂して彼女の体を吹き飛ばす。

彼女の体は見る見るうちにポリゴンとなって消えていく。


「フフフ……。」


声を漏らして彼女は消えていく。

それを見送りながら肩の力を抜く。


「お、終わったんですか……?」


シスター・ピースフル・ワールドがおどおどとした様子で近づいてくる。

それに片手を上げて答えようとして見て気づく。


「バッキバキかよ……。」


驚くほどに体は限界を迎えていたらしい。

心臓が体中に血を巡らせているのがわかる。

体が熱い。

彼女の打撃の一つ一つが傷をつけた。

傷は熱くなるものだ。

脳内麻薬によって痛みを感じない代わりにその熱が体のダメージを痛いほど教えてくれる。


「あ、立てないんです?抱えますからバンザイしてください!」


「すまん……頼んだ。」


シスターに抱えられ、下水道を出る。

出口にはいつものように待ち受けているプレイヤーがいた。


「ハッハァ!RANK5ゥ?きょうかいどくしぃん?知らねぇなぁ!」


「マジ今相手にする元気ねぇんだけど?」


「いや、卑怯でしょ!?それにあの炎上もあの女のせいでしょう!?もうこの人を襲う大義名分なんてないのに!」


「知らねぇな!俺は最強になる男!バンデット・ケーニッヒ様だぜ?RANK4の俺がそいつを倒せば少なくとも俺の評価は上がる!俺が派手で最高だってことを世界に知らしめてやるのさぁ!」


パンクロックな衣装に身を包んだ男。

バンデットの大太刀がその切っ先を向ける。


「あー、俺は死に戻っていいぜ?シスター、さっさと逃げておけ。どうせこいつの狙いは俺なんだし俺をキルしたら満足して帰るだろ。」


「……嫌ですね。」


「はぁ?」


「推しのピンチに何もできなかった私がこのまま何もせずに逃げるなんて、他のファンに煽られるどころか好き勝手言われるじゃないですか!」


「はい?」


「だから私はあなたを守る!あんな三下に“最強”の称号を汚させたりなんてしません!」


「いや、えぇ?」


「答えはもちろん“ハイ”でしょぉ!」


「まさかお前……マジィ!?」


「【選民崇拝】シスター・ピースフル・ワールド!」


「ジズラァ!?字ずらが馬鹿!最高にバカァ!?」


「俺より目立つんじゃねぇ!ふざけんな俺が一番目立つんだよぉ!」


バンデットがキレながら突撃をかける。

大太刀を使用した踏み込み円月斬りを放つ直前、シスターがスキルを発動させる。


「“エクスチェンジ”、そして“フォールン・ドーン”!」


ショコレータの体が万全な状態に回復する。

そしてバンデットは体中から血を吹き出し、動きが止まる。


「んなっ!」


バンデットにはさらに追い打ちが襲い掛かる。

“ストンプ”ににた不可視の重力がボロボロになった体を無情にも地面に叩き付ける。


「推しのためならいくらでもぉ!やってあげますよぉ!」


シスターがその足でバンデットを足蹴にしてポリゴンへと変える。

楽しそうに?嬉しそうにしている彼女に対して“もう怪我は治ったから降ろしていいぞ”の声をかけられず、結局されるがまま、お姫様抱っこでアンブロシアの前でログアウトしたのだった。

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