ep19 カンガルーは両足で相手を蹴る

勝利を確信したキャンディナはあの我慢するような笑い声を漏らしていた。


「フフフ……フフフ……もう、これで私の勝ちよ。」


白蛇が彼女を守るようにとぐろを巻いて彼女の姿を覆いつくす。


「この装備、【偽神ハクダのグローブ】は相手のPOWERを奪って白蛇を産み出すの。そしてその蛇は私と融合し私の力になる。」


とぐろがだんだんと緩められ、その中のキャンディナが少しづつその姿を晒す。


「足なんてあるから投げられる。これで弱点は一つ消えたわよ?」


吹き飛んだ下半身から、白蛇の体が生えている。

ラミアのような半人半蛇の姿は最早人間の物ではない。


「それはどうかな?俺に勝てると思うならやってみればいい、叩き潰してやる。」


――シャァァァァァァァ!


ラミアの体を使用した移動は腹を擦る音が、離れていても聞こえるほどに大きく響く。

それだけ体重が増えたということは投げられないし足を崩しての攻撃チャンスも無い。


「太った?」


「あなたの仔よ!認知しなさい!」


でたらめな体重によるタックルはそれだけで脅威、そして元から彼女の格闘センスはずば抜けている。


「だがなぁ!」


もう当たる気はしない。

なぜならそれはもう見切っているからだ。

そして俺はまだ切り札を……いや、切り札とは呼べなくとも手札を残している。


「まずは“こう”!」


彼女の体が蛇になろうと、上半身は人間のまま。

だからこちらの拳を躱してしまう。

クロスカウンターなんてしなくとも殴り合いは自分に有利と思い込んでいるから。

そのまま躱して殴り掛かるのを選ぶ。


「そして“こう”!」


そのまま右足による前蹴り。

それは体を逸らせて躱すだろう事も予測済み。


「これで終わりよ!“インファイト”!」


「さいごは“こう”だよ!“ストンプ”!」


キャンディナはわからなかった。

右足は使用済み、手も伸びきっていて、左足を伸ばせないこの局面での“ストンプ”。

決着が決まるという場面でそのスキルを発動する手段がないのだからこれは。


「はったり!」


「じゃないんだよぉ!」


ショコレータの左足がキャンディナに刺さる。

それはキャンディナの思考の外から襲ってきた。

両足での時間差前蹴り。

それを可能としているのは。


「尻尾ぉ!?」


「カンガルースタイルってのは初めてか!?格闘マスター!」


【もしも私が】を使用した後、一度も使わなかった飾り、臀部から伸びるそれで全体重を支えた両足によるキック。

やっと生まれた時間。

やっと生まれた高威力のスキルを発動できるチャンス。


「“シックスシェル”!」


エネルギー弾が周囲に6つ浮かぶ。

それらは全て炸裂弾。

一瞬で相手を葬り去る力の塊だった。


「終わりだ!変態ストーカー!」


――バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!


勝利を告げる花火の音が、決闘場となった広場に響き渡った。

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