ep18 白蛇

目の前の二人の戦いは自分に理解できない様相へと変化していった。

シスター・ピースフル・ワールドは自身と目の前の二人の間にある隔絶された実力の差、“壁”を感じていた。

RANK4で得られたこの防具、シスター服に込められた能力は受けたダメージをPOWERへ変換するものだった。

これは恐らくあの二人も同じだろう。

だから、あのスキルの改造こそ、RANK5なのだと思える……だがあの二人は目の前でRANKが上がったのだ。

RANK3の“ウェポンチューンアップ”と同じように設定する時間があるはずではないのか?


「……どういうことです?」


呟かざるを得ない。

この戦場に自分は完全に置いていかれたという認識を覆せない。


「わ、私だってRANK5になれれば……!」


――ベキィィン!


――バッシャァン!


ついていけない、そう思いこの戦いを観察するだけにとどめる。

推しの全力戦闘を生で見られるのだ、そこで満足しておくべきだ。


「アッハァ!」


“インファイト”による身体強化によって加速した拳がショコレータを何度も襲う。

近接戦闘でありながらその一撃一撃が空気の弾ける巨大な破裂音のせいで大砲のような音になっている。

しかしそれに対してちゃんと手足による受け流しを一度も失敗しないショコレータも人外へと一歩踏み出していた。


「こんなの他のゲームじゃ味わえねぇよなぁ!?」


――パシィ!


とうとうキャンディナの拳をその手でつかんだ。

強化された力で引き戻される前にその有利を活かす。


「“ストンプ”!」


スキルの発動にキャンディナは前後の回避ではなく、腕を掴まれていても比較的動けるように左右へのステップで躱そうとするだろう。

だから。


「そぉらぁ!」


一本背負い。

重心の浮き上がる一瞬を狙った体術。


――メキィ!


現実なら、一撃で気絶しかねない衝撃を与えた。

しかしここはゲーム、追撃は決して止めない。


「“ピアッシング”!」


不可視の銃弾が叩き込まれる。

もうすでに銃身は要らない。

空中に作り出された銃弾が高い貫通力を持って襲う。

その一撃は彼女の下半身を吹き飛ばした。


「はぁ……は!……あぁ……あぁぁぁぁぁ!」


口から空気の塊を吐き出し無理に喋ろうとするキャンディナの腹を踏み潰す。

しかし足裏の感触は彼女が力でそれを耐えたことを伝える。


「これで終わりよ……【孕め我の仔を】!」


足の下から彼女の声が漏れる。

彼女の左手が真っ白の鱗に覆われている、いやあれは手袋だ。

その手がこちらの体へ触れるとともに言いようのない気持ち悪さが体内を駆け巡る。

あの装備は【白銀茨のエンゲージリング】と同質のものだったのか。

謎のスキルを発動されてしまった。


「お、おぅぇえ!……えっ……うぇぇ……。」


口から吐しゃ物を撒き散らしていると、腹部に激痛が走る。

体を突き破るような衝撃に怯んでいる隙にキャンディナは離脱したようだ。

正面をかすむ視界の中、強く睨むとそこには新たな敵が見えていた。


――シュゥゥゥゥ……


真っ白い鱗に覆われた蛇が、その身をドンドン巨大に成長しながらこちらを見据えていた。

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