ep16 魔術師
キャンディナ・キャンディベルの激情、そしてシスター・ピースフル・ワールドの崇拝に近い執着。
どちらも自分には理解できない。
自分はどうしてキャンディナ・キャンディベルを気持ち悪いと思った?
今この場で起きている問題を一発で終わらせる手段がある。
“キャンディナの想いを受け止め夫となる事”それができない理由は自分の中の彼女への嫌悪感だ。
彼女の行い自体は咎められるべきものだが、本人の言う通り、彼女を受け入れればすべて解決なのにだ。
「そうか……そうだったのか。」
キャンディナ・キャンディベルは失敗していた。
全てが自分の思い通りに行くと思っていて、そしてそれを実行してきた。
だがその行いこそが、ショコレータ・ショコランティエを覚醒へと導くのだった。
対峙する二人、シスターを軽く腕で制し、彼女の前に立つ。
「俺がお前を受け入れられないのは、お前が俺の嫌いなタイプだったからだ。」
その言葉に、彼女たちは耳を傾ける。
彼の言葉は、今この戦場を終わらせる力があるものだから。
「俺は平凡な容姿、平凡な学力、そして平凡な人生を送ってきたんだ。」
「私がそんなもの、いくらでも埋めてあげる!あなたは今日から特別になれる!」
「黙っててくれ、夫の気持ちをちゃんと聞くのはいい妻の条件だろ?」
少し軽口も戻ってきた。
自分が定まってきたような感覚に、全能感のような物さえ感じる。
「そんな俺が願ったんだ。“何かで一番になりたい”ってな。何もかもが平凡な俺が何でも持っているやつらを押しのけて、何かで一番になりたかったんだ!」
そうだ、俺がゲーマーになった理由なんて単純なものだったんだ。
「それがVRゲームだった!初めて手にした“一番”の称号が俺を俺たらしめたんだ!」
だからこそ、俺はキャンディナ・キャンディベルを、財園 和雨という個人を否定する。
「お前は何もかもを手にして、それでさらに俺を求めた!だから受け入れられない!何かに必死になって、何もかもを投げ捨てて一番になりたいと願うような、そういう人生を送った俺がお前を受け入れることなんてない!だから俺はお前を否定して、さらに一歩先に行く!」
【神秘の欠片と共鳴しました】
アナウンスが聞こえる。
【神秘があなたを形作る】
これは、ゲームじゃない。
【アバターを再構成します】
今の自分は間違いなくこの世界に生きている!
【RANK UP!】
答えはすでに出ている。
【RANKが4になりました。】
このゲームは何かがおかしい。
だがそれが今は気にならない。
【称号を受け入れますか】
「当然答えは“イエス”だろ!」
【称号を獲得しました】
ファンファーレが鳴り響く。
このRANK UPが特別であることを示しているのだろう。
それも今なら理解できる。
【RANK UP!】
【RANKが5になりました】
【おめでとう、新たな魔術師よ】
【【響界独神】ショコレータ・ショコランティエ】
【あなたの旅路に祝福を】
【あなたの進化に祝福を】
「【響界独神】ショコレータ・ショコランティエ。これでお前と対等だ!」
「この世界に俺は一人いればいい!俺を褒めろ!俺を崇めろ!俺は俺一人で完成された、偶像じゃない“信仰”になる!」
真っ白のキャソックに身を包み、聖職者のような姿になった彼に血のように赤いストールが掛けられる。
やがてキャソックは黒い手形に染め上げられ、真っ黒に染まり切ると同時に彼の指が光る。
「もう使えるはずだよなぁ?【もしも私が】!」
白銀茨のエンゲージリングが光る。
キャソックを切り裂いて現れたそれは爬虫類のような鱗を持つ尻尾だった。
さらに両足が怪物のように肥大化し、巨大な爪が地面に食い込んでいく。
「神になれたなら……そう願った俺の力を見せてやる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます