ep13 こうしてあなたの前に立てた

「全ては4年前、10月21日に始まったのよ。」


その日付について、ショコレータは何も思い浮かばなかった。

その頃と言えば様々なVRゲームを渡り歩いていた記憶しかない。


「フフフ。あなたにとっては日常の一つでしかなかったんだもの。知らなくて当然。」


「……恨みか?悪い、何も覚えてない。」


「いいえ、でももしかしたら思い出すかもしれないわね。語りましょう。」


彼女は舞を踊るかのように歩きながら語る。


「あの日、“幻闘最武宴”というゲームがその歴史に幕を下ろしたわ。私はそのサーバートップに君臨していた。」


「“幻闘最武宴”……?たしかVR格闘ゲームだったっけか?わりとストイックなゲームだった気がするが……いや、俺そのゲームプレイしたっけ?噂ばっかり聞いてたかも?」


「その日、あなたは配信のネタとしてある配信を行ったわ。……“今からサービス終了するゲーム始めてトップに立つ!!!”って配信……その配信上であなたはこう言ったのよ。」


「いや、覚えてねぇよそんなの……。」


「“このゲーム今からトップになるならトップとタイマン30本全部勝てばいいんだろ?”ってね。その言葉の通りあなたは私に何度も勝負を挑んできた。」


「たしかにそんなことしたような気も……。」


「私は憂いていたわ。あのゲームをずっとプレイしてきた私は“私を倒せるプレイヤー”が現れないことに憂いていたの。そしてサービス終了間際に私はあなたに30連敗した。」


「それを恨んで……?」


「確かに私はニュービーのあなたに30連敗したせいで最後にはサーバーランキングのトップ10から滑り落ちてしまったわ。でもそれはどうでもいいの。」


「ならどうして……?」


「私はあなたを探した。そしてあなたを見つけた。もう一度全力で戦いたい、勝ちたい!ってね。夢見る乙女のようにあなたを求め、その障害を全て取り去っていったわ。」


「障害?」


「あなたの本名はもうネットに漏れているから、ここは正々堂々私も本名で答えさせてもらうわ。私の名前は“財園 和雨(ざいえん わう)”。財園グループの実質的トップに君臨する一人の女よ!」


その宣言は、まさに青天の霹靂だった。

大企業を束ねる財園グループのトップがVtuberをしていて、かつそれを公表するという大ニュースが世界に知れ渡った瞬間だった。


「はぁ?……はぁ!?」


完全に不意打ちを喰らった。

リアル情報の開示がこれだけ強烈になるなんて思いもしなかった。

そんなショコレータを無視して彼女は話し続ける。


「4年前時点では父が実質的なトップだった。だからその座を奪い取るのにも苦労したわ……あの男は私を“理想の花嫁”にすることに固執していたから……“しつけ”なんて言い方をすればいいと思っているかのように私を虐待じみた教育でどんどん作り替えていったわ。」


「……それがどうしてVRゲームに繋がる?」


「父はVRというものを全く理解していなかったのよ。教材として与えておきながら私がこっそりVRゲームをしていたなんて知らなかった。でもそれは私の唯一の……ストレス発散?いいえ、趣味と言った方がいいかしら?……趣味になった。」


「そのゲームっていうのが……“幻闘最武宴”だったのか。」


「そう、私に施された護身術やヨガ、様々な体を動かす技術はゲーム内で不動のトップに君臨するだけの力をくれたわ。そしてそれをギリギリのタイミングで打ち破ったのがあなた。」


「お前の目的は“俺ともう一度格闘ゲームで戦いたかった”……?」


「そうね、始まりはそうだった。でもね……フフフ。そのうち気付いてしまったの。」


キャンディナは歩みを止め、ショコレータの目の前に立つ。


「こんなにもその日を待ち焦がれ、あなたの存在に頭の中を埋め尽くされる感覚……これを“恋”と呼ばずして何というのかしら?」


その、告白ともとれる言葉が、全世界へ配信されるこの空間で言葉となって発せられた。

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