ep11 たった一つの答えを探して
「報酬が届くのは明日の0時か……。」
ログアウトしたショコレータは時間を確認する。
夜10時。
まだ寝るには少し早いが、今のショコレータにとってはそれこそが重要だった。
――カタカタカタカタカタ……
広い部屋にキーボードを叩く音が響く。
打ち込んでいるのは一通のDM。
「……本当になんなんだ……?」
何でこんなことをしなければいけないんだ、そういう思いがないわけではない。
わざわざ話をぶり返す意味も無い。
今、世界で最も注目を集めるゲームである“ミスティカ・アナザーワールド”のトップに立った時点で今の自分は十分に価値があるはずだ。
だからこそ、こんなことをする意味がないのは痛いほど理解している。
でも。
「俺はたぶん“理解”したいんだ。きっとそれが、俺をさらに強くしてくれるって。俺自身が理解してるんだ。」
頭はひどく冷静になっている。
ゲーム内の自分はもっと感情的で、全力で、きっとあれが自分の本性なんだろう。
俺を嵌めた女の持った“激情”を理解したい。
心が力を持つことを、今の俺は知っている。
だからいろんな心を知りたい。
そうすることで、自分の心を理解できると信じているから。
「……おれはどうして“最強”になれた?」
自問自答も何度目だろうか。
いつか、5年前にはそうだったと思う。
VRゲームの中では現実以上に動き回れた。
現実ではできないことがいくらでもできた。
そんな自分を作ったものは何だ?
「それが心だと言うのなら……いやそれが心なんだ。だから俺は勝ち続けないといけないんだ。」
思考が支離滅裂になってきた。
おかしな事ばかり考えてしまう。
心が電子の世界の能力に影響を与えた?
そんなことは有り得ない。0と1の世界に心が影響するわけがない。
そう思いながらも一通のDMは送信された。
「……ふぅ。」
文面はあれでよかったのだろうか。
だが今は時間がなかった。
この機会を逃せばきっともうその機会はしばらく回ってこない。
一杯のコーヒーに口を付け、喉を鳴らす。
「……早いな……いや、あの時もそうだったな。」
あの電話番号だけのSMS。
あの時を思い出すようなスピードで返信は返ってきた。
「……了解。一度寝ておくか……。」
今はただ、眠りたい。
いつもそうだ。
長時間電子の世界へもぐった後はいつもそうだ。
体がだるい。
まるで激しい運動をした後のような倦怠感に襲われていた。
明日はきっと、もっと疲れる。
だから今は。
「おやすみ、ショコレータ。」
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