ep9 キャンディナ・キャンディベル

エリアA・針葉樹林エリア。

最後の決戦へと無事到着したことで、やっと一息つくことができた。


「はぁ……まさか俺にまだファンがいたとはな……。」


POWERも完全に回復した。

いつでも戦闘に入れるようになった。

だからこそこれから行うことは決まっている。


「敵はもう10人いないんだもんな……。」


エリアの大きさを考えればもう見つかってもおかしくないはずだが……。

そう思って歩き回っているとちょうどエリアAに侵入した場所へとやってきていた。


「20分もかからねぇか……。」


しかし一周してさっきのドレッドヘアの男にすら会わないということはもう中央で戦っているのだろうか。


「しゃあないか。真ん中へ行って探すか。」


そう思ってエリアの中心へと足を向けるとともに、その“異常”に気がついていくのだった。


「……。」


針葉樹林と言うことで落ち葉のない土がむき出しの山道を歩いていたはずだ。

なぜだ。

どうしてこんなに“濡れている”?


――ビチャ……ビチャ……


まるで沼だ。

沼のエリアはFだったはず。

ここは針葉樹林エリア、こんなにぬかるんでいるはずがない。


「!……これは……嘘だろ?」


森が消えた。

いや、木が消えたと言った方が正しいか。

針葉樹林の中にぽっかりとあいた空間。

その中心に立つ少女。

そしてその手が掴んでいるものは。


「……さっきのドレッドヘア!?」


もうすでに彼の半身はポリゴンとなって消えていく最中だった。

その彼の視線が一瞬こちらを見て、消えていった。


「あ、最後のプレイヤーだね!☆今日は僕が優勝するんだから!☆覚悟してよね!☆」


自分のことを“僕”と呼ぶ少女。

ツインテールでキラキラとしたメイク、さらにバッチリ決めたポーズ。

アイドルがそこに居たのだった。


「超人気☆Vtuberのキャンディナ・キャンディベル!よろしくね!☆」


バチッと音がしそうなほど決まったウインクを向け、彼女はその武器を振り上げる。


「……メリケンサック……!?」


両拳がキラリと光る。

しっかりと主張するそれは間違いなくメリケンサックだった。


「“インファイト”!☆」


スキルの発動と共に、彼女の拳が目の前に現れる。

咄嗟に体を逸らして躱すも躱しきれずに頬をかすめる。


「チッ!“ストンプ”!」


――ダン!


大きな足音と共に後ろへと跳躍する。

靴跡が残りそうなほどの力で地面を叩きその力で跳躍したのだ。

これについてこれるプレイヤーなどいないことも理解していた。


「逃がさないよ!」


彼女の顔が目の前まで迫っている。


「この動きについてきた!?いや……そうか!」


地面が濡れていたせいだ。

“ストンプ”を利用しての跳躍だったが、ぬかるんだ地面がその跳躍の勢いを抑えていたのだ。


「ヤッハ!☆」


――ドン!


彼女の右拳が鳩尾へと綺麗に潜り込むのが視界に映った瞬間、自分の体が宙に浮いたことを理解したのだった。

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